内容説明
他人には見えない電車を毎日運行する六ちゃん。夫を交換し合って暮らす勝子と良江。血の繋がらない子供を五人も養う沢上良太郎に、自宅に忍び込んだ泥棒をかばうたんば老人―。誰もがその日の暮らしに追われる貧しい街で、弱さや狡さを隠せずに生きる個性豊かな住人たちの悲喜を紡いだ「人生派・山本周五郎」の不朽の名作。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903‐1967。山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文藝春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シナモン
89
図書館本。読み始めてこれは一体いつの時代の物語なのだろうとその世界観に入り込むのに時間がかかりました。どれもその日をやり過ごすのが精一杯の貧しい暮らし、最後まで救われることもなく淡々と続く短編集。中でも、幼い男の子が食中毒であっけなく亡くなってしまう話はもうなんといって良いのやら。そんな街に住む人たちが個性豊かに生き生きと描かれている。現代にも通じる所もあったりして。今も昔もいろんな人生があり、いろんな人がいる。そして懸命に人生を頑張っている。人間臭さたっぷりの一冊でした。2019/09/14
jam
83
宮藤官九郎の同名ドラマを観て読む。ドラマは震災後の集合仮設住宅が舞台だが、著者曰く「ここには時限もなく地理的限定もない」という昭和30年代、貧困にあえぐコミュニティを描いている。新聞の連載短編集という実話ベースの物語は、1話ごと人物描写を中心に淡々と進むが、住人達は理知には疎い人ばかりで滑稽でさえある。けれど、回が進むにつれ、その弱さや浅はかさに尊さや美しさが宿るように感じられたのは、彼らの生の切実さゆえか(山本の文章ゆえだけど)。「プールのある家」では、父親の戯言をただ聞き続けた少年の最期の言葉に落涙。2023/11/15
ペグ
71
前から山本周五郎が気になっていた。なかなか書店に無く、ようやく入手。良かった〜本当に良かった。特に好きだったのは電車ばかの六ちゃんの話。どですかでんという擬音。夜にはおそっさまにお願いする。「なんみょうれんぎょう かあちゃんの頭が良くなりますように」と。そして乞食の話。それぞれの終わり方は作者の感情を投入しないばかりに余韻が残る。 貧しく教育も受けられず日々の暮らしの中生きている人々。2024年12月。素晴らしい作品に出会う。2024/12/03
竹園和明
57
昭和30年代が舞台となると、このような日常を送る人達の街が日本各地にあったのだろう。本作は、例えば醤油の貸し借りをするような“向こう三軒両隣”的な仲良し長屋の日々を描いたものではない。この街は、家というより小屋に住み、貧しい暮らしながらそれを恨むでもなく、今日一日の糧を得ながらそれぞれ淡々と日々を送る人達の街だ。しかし不思議な事にそれが逆に色濃い人間臭さを感じさせる。「枯れた木」の悲哀は特筆すべきもの。飽食暖衣に慣れてしまった我々だが、生きるというストレートな行為の超然さを見せられた気がした。2023/12/11
Apple
47
きわめて、濃いドラマチックな小説だと思いました。街の住人たちを主人公とした連作短編小説の形式でありますが、情緒的な部分と、貧困からくるワイルドさが併存していて、本作の面白い部分だと思いました。重厚さがあり、読むのに体力が費やされたように感じました。ボス面で存在するネコが出てくる話が面白かった気がします。生々しい物語の中に、所々ありもしないような想像的な世界観が挟まれていたのが印象的でした。2023/07/22