内容説明
ふとした不始末からごろつき侍にゆすられる身となった与之助が、思いを寄せていた娘から身を引き、ごろつきを斬って切腹するまでの心の様を描いた表題作。わがままで武術自慢の藩主の娘を、一介の藩士が無遠慮にこらしめる「奇縁無双」。維新戦争に赴いた恋人の帰りを40年間も待つ女心を哀切に謳った「春いくたび」。ほかに「一代恋娘」「友のためではない」など全13編を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
84
これまでと読み心地が、少し違うな?と思いながら読了した。13の短篇集、私は二篇の恋物語が良かった。【恋芙蓉】はからずも若き心友が恋敵になって「戦い」に赴くことに…。爽やかな男の友情が心に残ります。私は【春いくたび】に胸が熱くなりました。残雪残る甲斐駒岳の峰々を背に「命さえあったら、必ず帰る」と、許嫁に誓って戦地に赴く一途な恋です。そして、40年ぶりの二人の再会が、こんなに哀しく切ないのに、これほどまでに心を打たれるの何故だろう…? 短篇で多少の物足りなさは残りますが、やっぱり好きです山本周五郎は…。2022/05/07
nakanaka
74
13篇から成る短編集。個人的には、武に秀でたじゃじゃ馬姫を切腹覚悟で諫めた主人公が最終的には花婿になってしまう「奇縁無双」が面白かった。また幕末の動乱で戦地に赴く恋人を待ち続ける女性を描いた「春いくたび」は描写が美しく印象に残った。剣だけではなく船大工や火消しなど、それぞれの分野で懸命に生きる人々が気持ちよく描かれ、尚且つそこに男女のプラトニックな愛があるので読んでいて気持ちがいい。最後に収録された「世間」という現代小説は他と一線を画し存在感がある。やっぱり藤沢周平とは違った良さがあり。2020/05/12
AICHAN
43
図書館本。昭和10年代に書かれた短篇13編。若作。そのせいか、ストーリー展開が単純。戦後の作品に比べると捻りがいまひとつ、いやいまふたつ物足りない。2020/06/10
シュラフ
29
自らの人生の座標軸のずれを正すために時おり山本周五郎を読む。我々の行動はどうしても利己的になりがちなので、得なのか損なのかということで判断してしまう。それはいけないことである。正義なのか不正義なのか、他人の幸せになるのかならないのか、という利他的な精神で生きなけれは我々は幸せにはなれない。「そうか、…おまえはそんな苦しみも持っていたのか、知らなかった、己は知らなかった」(与之助の花)自己の責任と好きな女の幸せを考えて、自らの命を絶つという結論に至った男。自分にとても真似はできないとは思いつつも、襟を正す。2018/09/09
金吾
24
著者の武士物は人として悔いなく生きるにはどのように身を処していくのかが記されているように感じます。「奇縁無双」「友のためではない」が良かったです。2021/05/23