内容説明
四年間の江戸詰めの間に許婚・小房の父が狂死し家族は追放されるという運命に遭った信三郎が、事件の決裁に疑問をいだいて真相をさぐり、小房と劇的に再会するまでを描いた『菊月夜』。周五郎が年少の読者に向けて、母の愛とは何かを感動的に語りかけた『花宵』『おもかげ』。ほかに『柿』『一領一筋』『蜆谷』や、名作『青べか物語』の原型となった『留さんとその女』『蛮人』など全10編。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903‐1967。山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文藝春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞。’58年、大作『樅ノ木は残った』を完成。以後、『赤ひげ診療譚』(’58年)『青べか物語』(’60年)など次々と代表作が書かれた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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タイ子
87
昭和一桁から~20年代まで雑誌に掲載の作品が今読んでも胸にグッときたり、クスリとさせて素晴らしき時代小説を感じさせてくれる、これぞ山周作品ですね。武士の世界のままならぬ生き様を読んだと思えば、いきなり忍術の不思議物語が出てきてビックリ!山周さんならではの面白さで始終クスクス。「おもかげ」が印象的。母亡きあと育ててくれたのはまだ若い叔母。優しい叔母がだんだん厳しくなっていく。そんな時に母の面影がよぎる。成長した甥に叔母は初めてこれまでのことを打ち明ける。愛情が沁みる物語。「一領一筋」はラストのオチでうなる。2024/01/06
じいじ
81
やっぱり山周小説はいいです、短篇でも読み応え充分です。どれも遜色なし、すべてを紹介したいところですが…。」【花宵】武士の父を亡くした母と兄弟の物語。母の教えは、兄には甘くやさしいのに、弟には厳しく接します。その母の意図は…?。一番のお気に入りは【菊月夜】武家社会には不可欠の「家督相続」をテーマに、仇討ちを描いている。心に決めた女性一家が破滅に…。詳細を知らずに祝言を挙げた主人公は、新妻から彼女一家の顚末を訊かされます。…悲恋―実らぬ恋であるが、すでに枯れ果てたはずの熱いものが込みあげてきました。力作。2023/12/28
KEI
34
とても変化に富んだ短編集だった。どれも甲乙付け難いが、母親の代わりに遺された子を厳しく育てる「花宵」「おもかげ」が良かった。武士の世界のままならぬ姿を読んだかと思えば、忍術の不思議な話が出てきたり、クスリと笑ってしまう山本周五郎さんのユーモアを感じた話もあった。秀作だった。2024/06/25
金吾
33
イメージと異なる印象を受けた作品もありましたが、武家物は安定感ある面白さがあります。「花宵」「おもかげ」「菊月夜」が良かったです。2024/11/28
のびすけ
29
表題作「菊月夜」が一番印象的だったかな。江戸から帰藩した信三郎が、許嫁だった小房の父の死の無念を晴らす。小房の境遇が不憫で、信三郎の妻に宛てた手紙に胸が締め付けられる。「花宵」と「おもかげ」は角川の「春いくたび」にも収録されていて既読。厳しさの中に隠された"母"の深い愛情が心に沁みる。全体的には今ひとつの作品が多く、低調でした。2023/05/21