内容説明
幕府の御番医という栄達の道を歩むべく長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の“赤ひげ”とよばれる医長新出去定に呼び出され、医員見習い勤務を命ぜられる。貧しく蒙昧な最下層の男女の中に埋もれる現実への幻滅から、登は尽く赤ひげに反抗するが、その一見乱暴な言動の底に脈打つ強靱な精神に次第に惹かれてゆく。傷ついた若き医生と師との魂のふれあいを描く快作。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903‐1967。山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文芸春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
514
8つの連作短篇を集積して長編化したもの。「オール読物」に連載されていたことによるものだが、最初から長編の構想はあったものと思われる。もっとも、物語のごくごく初めから結末及びプロット進行のおおよその予想はつく。そして、まさにその通りに進むのだが、その意外性のなさは、むしろ読者にとっては心地よいものでもある。長崎帰りの新進気鋭の医師の登(主人公)のビルドゥングスロマンを「赤ひげ」こと新出去定の人格の造型を背景に描いてゆく。通俗性は否めないが、たしかに上手い練達の小説運びである。2021/04/18
抹茶モナカ
148
貧乏と無知が人を愚かにするが、それはその人の罪ではない。愚かであっても、『人間』なのだ。連作短編集形式で、主人公保本登の成長を描く傑作。結構現代的だったりする。山本周五郎さんには興味があったのだけど、手にしたのは宮部みゆきさん著の『淋しい狩人』がキッカケ。そちらも興味があれば、是非。2013/09/27
ももたろう
113
人の一生には「自分が変わる瞬間」というものがある。この作品では、それが描かれている。それは「心底から尊敬できる人間との出会い」である。だから、この作品は感化の物語だと言える。臭くて、汚くて、多忙で、給与は極めて少なくて、医者としての名声も得られない小石川養生所で、赤ひげと出会い、感化された保本。彼は、お金がなくて医者に診てもらうことのできない貧困に苦しむ者たちの命を救うことが人生の目的となった。黒澤明監督が映画化したことでも知られる、周五郎渾身の快作であった。素晴らしい作品なので、万人にお勧めしたい。2017/09/03
TATA
111
長年にわたって実家の母が絶賛していた作品。ようやく手に取って読むことができた。昭和33年の作品だが、時を経ても決して色褪せるものではない。長崎留学から戻った若き医師。婚約者に去られ、願いとは異なる職場に配属され何かと尖ったやり取りばかりの主人公。だけど思うままにならない環境こそ自身を発展させることになるという成長譚。最後の去定とのやり取りが何よりの成長の証。もしかしたら母は若い頃の僕にこういった成長を望んでいたのかな。2019/01/23
nakanaka
103
これまでに何度も映像化されている作品であることは知っていましたが内容に触れたのは初めてでした。赤ひげこと新出去定医長の小石川養生所に勤務を命ぜられた保本登の成長を描く内容。去定の圧倒的な存在感と器の大きさに読者は魅せられてしまいます。医療ものかと思っていましたが、養生所の患者である貧しい人々との交流がメインでした。時代小説としてはこれまで読んだことの無い角度から描かれているので新鮮で面白かったです。魅力的なキャラクターとストーリーなので続編が無いことが残念でなりません。2018/12/04
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