内容説明
文明の発達と医学の進歩がもたらした人口の高齢化は、やがて恐るべき老人国が出現することを予告している。老いて永生きすることは果して幸福か?日本の老人福祉政策はこれでよいのか?―老齢化するにつれて幼児退行現象をおこす人間の生命の不可思議を凝視し、誰もがいずれは直面しなければならない“老い”の問題に光を投げかける。空前の大ベストセラーとなった書下ろし長編。
著者等紹介
有吉佐和子[アリヨシサワコ]
1931‐1984。和歌山生れ。東京女子大短大卒。’56(昭和31)年「地唄」が芥川賞候補となり文壇に登場。代表作に、紀州を舞台にした年代記「紀ノ川」「有田川」「日高川」の三部作、一外科医のために献身する嫁姑の葛藤を描く「華岡青洲の妻」(女流文学賞)、老年問題の先鞭をつけた「恍惚の人」、公害問題を取り上げて世評を博した「複合汚染」など。理知的な視点と旺盛な好奇心で多彩な小説世界を開花させた
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青乃108号
216
1972年に出版され、一躍ベストセラーとなった有名作。介護保険制度のなかった時代の老人介護問題を扱った作品だが、古さを感じさせない著者の筆致に一気に読まされてしまった。家庭内で認知症の進んだ義父の介護を、最後までやり遂げた一主婦の奮闘記。夫はあくまで他人事の様に非協力的、息子は大事な受験を控えているため一人で介護の全てを抱え込み彼女も家族も崩壊寸前だ。主婦は思う、いつかは自分自身もこの様に老いる日が来る。そうなのだ。現在の65歳以上人口は、3,589万人となり、高齢化率も28.4%となった。俺ももうじき。2024/05/30
遥かなる想い
192
昭和の平凡な家族の風景がのどかである。 老人性痴呆を扱った作品だが、 昭子と 老夫婦との やりとりが昭和らしい。 義母が 亡くなったあとの 義父の振りまいを 昭子の視点で描く。 昭和47年の作品だが、今読んでも 身にしみる、そんな作品だった。2020/07/17
じいじ
111
この小説は、50年前の大ベストセラーだったとのこと。いま、読んでも旧さを感じさせない凄い小説です。主人公・恍惚の人・茂造は84歳、明日の我が身だと思って読みました。ある日突然、笑顔が可愛いくて家族から慕われているお婆ちゃんが倒れ、逝ってしまいます。死ぬ順番が違うだろう、と思いました。この物語、長男の嫁を中心に舅・姑・小姑との微妙な関係が、丁寧に描かれていて面白いです。読み終えて、81歳の私を支えてくれる人たちに、この茂造爺さんのように余計な負担をかけないで、残りの人生を過ごせたら…、と思いました。2022/06/12
まさきち
106
昭和40年代、まだ認知症がよく理解されず、耄碌と呼ばれ精神病として扱われていた頃の話。呆けた舅・茂造わ甲斐甲斐しく世話する嫁・昭子の気持ちや考えの変化や夫・信利や息子・敏の思惑、更には親戚や周囲との軋轢や温度差が丁寧に描かれていて非常に楽しめた一冊。風俗や生活習慣の現在との違いを味わえるのに、老人を取り囲む人々の気持ちや考えはそう変わらないのだなと感じさせられながら読了です。2020/03/13
さと
92
軽度の認知症を患う実母の遠距離介護(介護というよりご機嫌伺)をするようになってまず感じたのは最も身近にいる人の孤独感だった。理解されない大変さ、とはいえ自分がやるしかない現実、その思いを吐き出す場所さえないという八方塞がりな世界。私はまだ深刻な状況を迎えていないが、制度は整ってきたとはいえ介護する人の心に対するケアは何も変わっていないと感じた。一つだけ感じた大きな違いは昭子と自分のマインド…現実に引きずられるかのような日々の中で昭子は、この介護をやり切ってやる と腹をくくったことだ。2021/06/04