感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ソーダポップ
20
「朱を奪うもの」は「傷ある翼」と「虹と修羅」とあわせて自伝的三部作と言われている作品になるようだ。主人公の滋子は、作者の円地文子と経歴が重なる部分が多いと言われている。そんな主人公滋子は祖母のたねから幼い頃に聞かされた江戸の戯作により、ややアブノーマルな性的嗜好を持つようになった。性的嗜好もそうだが、物事に対する態度や考え方にもノーマルというよりはやや屈折した滋子。そんな風に変わった主人公だが、女性作家が描く女性主人公ならではの独特の心理の動きや、身体感覚が描かれているのが、とても興味深い作品でした。2025/01/25
しゅんしゅん
10
「傷ある翼」「虹と修羅」に続く三部作の一作目。フィクションを交えながらも自伝に近い。ブルジョア側に生まれていながら、幼くして触れてきた読書体験により社会主義思想に傾倒し、プロレタリア運動に関わることになった複雑な環境が描かれる。人生自体が観念や虚構の中で出来ているようなおぼろげなさ。社会的な活動への憧憬、女性の解放への意識に支えられた運動には意欲的であるが、それの土台となって支える柱となるべき日々の生活への幸せを軽視しているようで心が痛い。打算と虚栄に彩られているのだが、恐ろしい諦めの雲が更に頭上を覆う。2021/11/15
SHEEP
2
昭和初期の名家に生まれ江戸古典や劇作に親しみ、プロレタリア運動に片脚つっこみながらシニカルに生きて嫌いな男と打算で結婚するという半自伝的小説。 文章が上手くて艶やかで流麗。2021/08/11
格
1
幼い頃から小説や戯曲に親しみ、具体的な経験としてというよりも抽象的な概念として人生を把握する滋子の生涯。三部作の第一部ということで、本作では新進のプロレタリア劇作家との恋(それもどこか実感を伴わないものである)や、愛という言葉とは無縁の打算的な結婚までが描かれている。作り物としての小説や戯曲と比べて遥かに不出来で粗雑なものにみえる現実の生というものに高を括っているように見える滋子であるが、1930年代という年代も相まって、現実が持つ奇怪な力が不穏な予兆を伴って全編を覆っているようでもある2024/07/08