内容説明
患者の謎の失踪、寝たきり老人への劇薬入り点滴…大学生・難波が入院した関東女子医大附属病院では、奇怪な事件が続発した。背後には、無邪気な微笑の裏で陰湿な悪を求める女医の黒い影があった。めだたぬ埃のように忍び込んだ“悪魔”に憑かれ、どんな罪を犯しても痛みを覚えぬ虚ろな心を持ち、背徳的な恋愛に身を委ねる美貌の女―現代人の内面の深い闇を描く医療ミステリー。
著者等紹介
遠藤周作[エンドウシュウサク]
1923‐1996。東京生れ。幼年期を旧満州大連で過ごし、神戸に帰国後、11歳でカトリックの洗礼を受ける。慶応大学仏文科卒。フランス留学を経て、1955(昭和30)年「白い人」で芥川賞を受賞。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア作品、歴史小説も多数ある。’95(平成7)年、文化勲章受章。’96年、病没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
132
主人公は美人の女医である。ここでも女医の心の中に潜む悪意のようなものを奇妙な事件とともに描く。心が壊れているのではなく、心がないとも言うべき女医に対して、ここでも神父を対峙させ人間の心の中に巣食う根源的な闇のようなものを淡々と描いている。
のり
116
40年近く前に書かれたとは。全く違和感ない。結核で大病院に入院した「難波」。病院内で立て続けに起きた騒動。4人の女医の誰かが関わっている可能性が…その女医には良心が欠けている。自己分析で意識している為の衝動。巻き込まれる人々も続出。女医の心を救おうとする人物も現れるが…罪悪感も、愛も感じない女医に救いはあるのか?2018/04/24
ゴンゾウ@新潮部
111
誰にでも内包する「悪」もとい「悪魔」的要素を鋭く描いた作品。カソリック信者である遠藤氏の視点で人類愛との対比が嫌悪感を増幅させる。医者の使命感も行使の仕方で善悪が変わる。それを分けるのは愛ということなのだろうか。2018/04/08
優希
104
心の闇を抉り出したミステリーとして、鳥肌が立つような感覚に襲われました。入院先で起きた奇怪な事件の裏にいる無邪気ながらも悪魔的な女医の存在。罪を犯しても感情を持たない空虚さと背徳的な恋愛にその身を流していく女医の姿は、悪魔に身を売ったそのものの女性に見えました。これは現代における黒い部分の予言にすら感じられます。キリスト教の視点があるからこそ恐ろしさと悪を描き出すことができたのだと思います。2016/11/29
おたま
74
作中でも言及されているが、この物語はドストエフスキー『悪霊』の登場人物スタブローギンの存在の問題を継承していると思う。さらにこの物語は、そのスタブローギン問題を現代社会へと再び提起するためにも書かれている。そこには、効率や生産性や目的は手段を選ばないという、目に見えぬ「悪魔」の存在についても書かれており、現代に生きる誰もが自分の問題として考えなくてはならない場に直面させられる。しかし、以上のようなことを決して難しくなく、ミステリー仕立てで興味深く読ませてくれる。熱中して読んで、読み終わると戦慄する。2019/08/26