出版社内容情報
安部 公房[アベ コウボウ]
著・文・その他
内容説明
笑う月が追いかけてくる。直径1メートル半ほどの、オレンジ色の満月が、ただふわふわと追いかけてくる。夢のなかで周期的に訪れるこの笑う月は、ぼくにとって恐怖の極限のイメージなのだ―。交錯するユーモアとイロニー、鋭い洞察。夢という“意識下でつづっている創作ノート”は、安部文学生成の秘密を明かしてくれる。表題作ほか著者が生け捕りにした夢のスナップショット全17編。
目次
睡眠誘導術
笑う月
たとえば、タブの研究
発想の種子
藤野君のこと
蓄音機
ワラゲン考
アリスのカメラ
シャボン玉の皮
ある芸術家の肖像
阿波環状線の夢
案内人
自己犠牲
空飛ぶ男
鞄
公然の秘密
密会
著者等紹介
安部公房[アベコウボウ]
1924‐1993。東京生れ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。’62年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。’73年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、’92(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。’93年急性心不全で急逝(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
305
Wikipediaでは随筆に分類されているが、本編はまぎれもなく小説だ。中には例えば「発想の種子」のように、それ単体ではエッセイと呼ぶ方が相応しそうなものもあるが、全体としては、意識的に再構成された小説である。冒頭に置かれた「睡眠誘導装置」による入眠から始まって、一旦は覚醒したかのように見せながら、最後の「密会」では、より深い眠りの中に入っていくのだ。ただし、最後の数篇を除いては、その夢が驚くほど理性的で論理的な構造の中に置かれている。安倍公房らしさがより鮮明に表れているのは果たしてどちらだろうか。2014/01/13
ケイ
143
「睡眠誘導術」夢とうつつの境目はどこか。それがゾッとする。「藤野くんのこと」スミからスミまで面白かった。特にアムダの話。あれだけで傑作なネタだと思う。「蓄音機」残酷なんだけれど、大家族とはこんなものだったのだろうか。蓄音機を抱えたおじいさんは逞しく切ない。「ワラゲン考」悪意が容赦なく、それゆえの面白さ。「シャボン玉の皮」とてつもなく胸が苦しい。箱男は未読だが、その写真のテーマが恐ろしくせつない。後半の短編は、読むに堪えられない文章が多かった。夏の夜向きの短編集。2016/07/24
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
131
月が笑うと貴方が言ったからみあげると満天の星だった/冷たく澄んだ紫に吐く息白くたなびく/笑う月は吉兆かと貴方の手をぎゅっと握ると/手だったものはぐずぐずに崩れてしまった/私が握っていたものは林檎だった/それは罪の果実/裸でふれあうことが自然な世界で方舟に乗りたいと私は言った/貴方がほほ笑んで先に乗せるから/当然ふたりはずっと一緒だと思っていた/波は貴方を運んでしまった/私は貴方を探す舟を漕ぎ出し/少しづつ沈んで/息はなくなって/いつか会えると/ずっと会えなかったのかと/覚めやらずつめたい2020/12/02
ehirano1
127
悪夢は現実の恐怖を上回るように思いました。2025/02/24
ミュポトワ@猫mode
102
図書館本。はじめ星新一みたいなSSかと思ったら途中から作者の自伝的な話になってきた。どうやって本を書いているか、夢の内容を機をくしているかはあまり興味はなかったんだけどな…この作者、読むの初めてだし。後半はまたSSに戻ったんだけど、なんとも終わり方というか長さというか眠くなる内容で微妙でした。飽きちゃったんだと思いますw自伝部分も、論理的に文化的な内容を話して終わりに余韻を持たせるのはやめたほうが良いと思います。論理的な内容は明確に終わりをつけないと何を言いたいのかさっぱり訳が分からなくなってしまいます。2019/07/25