内容説明
昭和11年青森刑務所脱獄。昭和17年秋田刑務所脱獄。昭和19年網走刑務所脱獄。昭和23年札幌刑務所脱獄。犯罪史上未曽有の4度の脱獄を実行した無期刑囚佐久間清太郎。その緻密な計画と大胆な行動力、超人的ともいえる手口を、戦中・戦後の混乱した時代背景に重ねて入念に追跡し、獄房で厳重な監視を受ける彼と、彼を閉じこめた男たちの息詰る闘いを描破した力編。読売文学賞受賞作。
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感想・レビュー
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yoshida
306
戦前から戦後にかけて、刑務所から四度脱獄した佐久間清太郎。彼の超人的な脱獄手法と看守達の労苦を、激動する世相と共に描く。刑務所と共に発展した網走経済。知られざる刑務所の食糧事情。対米戦争の激化により減る官員。緻密な計画を立てながら、ふとした人情で捕まる佐久間。彼が府中刑務所で徐々に人間性を取り戻していく様子が興味深く感じた。実際に脱獄を断念したのは温情と、これまでの逃避行による疲れもあると思う。人間の持つ傑出した能力。残念ながら佐久間は脱獄にその能力を使ったが、他の事柄に活かせば別の生き方もあった。力作。2019/02/17
修一朗
227
佐々木清次郎の4回の脱獄手口には感動すらしてしまう。並外れた身体能力と看守の気持ちを繰る様子が淡々とした文章で緻密に描かれている。過酷な刑務所だった網走刑務所が戦時中は食事情が良く囚人生存率が最良だったとか,処遇基準が守られる囚人に比べて看守はひもじい思いをしており羨ましささえ感じていたとか,並行して描かれた戦時の行刑史から当時の環境もわかりこっちも面白かった。ドラマ版破獄で圧巻の演技を観てから山田孝之が好きになった。緒形拳版はこれから観ます。次の吉村作品は「羆嵐」です。2020/10/27
読特
214
首都圏を環状に回る武蔵野線。始発を出て次の駅。府中街道を北へと歩けば、高く聳える壁が右手に見える。その向こうで、かつての脱獄王が懲役を果たした。青森、秋田、網走、札幌と、手錠足枷もろともせず、難攻不落の獄舎を抜け出した。中にいれば食いはぐれはない。外に出れば、食うにも困る。雨風凌げる屋根も壁もない。猛獣も棲息する地域。襲われる恐怖。それでも、逃げることに執念を燃やした。何を思い、何故最後は止めたのか?戦前から戦中、戦後へと、受刑する側もさせる側も、時代に翻弄されながら、厳しさから暖かさへと変わって行った。2025/04/21
ちび\\\\٩( 'ω' )و ////
213
昭和初期。11年青森刑務所脱獄。17年秋田刑務所脱獄。19年網走刑務所脱獄。22年札幌刑務所脱獄。犯罪史史上未曾有の四度の脱獄を実行した無期刑囚、佐久間清太郎。その緻密な計画と大胆な行動力、超人的ともいえる手口。厳重な監視を受ける彼と、彼を閉じ込めた男達の息詰まる闘いを、また、名前は仮名だが実際にあった事件をもとに、著者の綿密な踏査、調査によって描かれた力ある小説。戦中戦後の混乱した時代背景を彩りながら、北国の地で捲き起こる昭和の脱獄王の物語。「脱獄出来ない独房なんてないんだよ。必ず逃げ出して見せる!」 2019/01/06
ehirano1
204
戦前から高度成長期を生きた超人的脱獄囚vs.看守及び所長の話。”北風と太陽”の一例?2016/03/11