内容説明
胃潰瘍や早期癌の発見に絶大な威力を発揮する胃カメラは、戦後まもない日本で、世界に先駆けて発明された。わずか14ミリの咽喉を通過させる管、その中に入れるカメラとフィルム、ランプはどうするのか…。幾多の失敗をのりこえ、手さぐりの中で研究はすすむ。そして遂にはカラー写真の撮影による検診が可能となった。技術開発に賭けた男たちのロマンと情熱を追求した長編小説。
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927‐2006。東京・日暮里生れ。学習院大学中退。1966(昭和41)年『星への旅』で太宰治賞を受賞。同年発表の『戦艦武蔵』で記録文学に新境地を拓き、同作品や『関東大震災』などにより、’73年菊池寛賞を受賞。以来、現場、証言、史料を周到に取材し、緻密に構成した多彩な記録文学、歴史文学の長編作品を次々に発表した。主な作品に『ふぉん・しいほるとの娘』(吉川英治文学賞)、『冷い夏、熱い夏』(毎日芸術賞)、『破獄』(読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞)、『天狗争乱』(大佛次郎賞)等がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
120
吉村作品は『ヒューマン』(何故か人間と言う響きでは無い・・)を感じさせてくれる。胃カメラ・大腸カメラのお世話になった事はあるが、その都度人体の不思議(しかも自分の)と文明の利器に感心するばかりだった。まさか世界初の胃カメラを日本人って、びっくりと同時に知らずにいた事が恥ずかしい。これはフィクションなので妻の立場も考えてしまう自分がいたが兎に角、凄い男たちがいたものだ。その熱を感じながら読了した。2016/07/27
yoshida
111
胃カメラ。私も数回お世話になった胃の検査機器。その開発を描く。まず、胃カメラが日本で開発された事に驚く。朝鮮戦争開戦が近い戦後の日本。とある光学機器メーカーに東大分院から胃の内部を撮影可能な機器の研究依頼がくる。技術者と医師、そして町工場の職人達は未だ世界で未開発の機器に挑む。試行錯誤を繰り返し年月は過ぎ、遂に機器は完成を見る。そして技術は大腸カメラ等の開発にも寄与。世界の医療に多大な貢献をする。試行錯誤に偶然や、意外な発見もある。開発に携わった人々の熱意に胸熱くなる。オリンパスが医療に強い原点だろう。2022/02/26
kinkin
102
再読。現在、胃の検査には欠かせない胃カメラの開発物語。 カメラというと両手で持つカメラがごく当たり前の頃だ。胃の中にカメラを入れて写真を撮るという発想がすごいと思った。技術者達が家族を顧みず日夜研究に没頭する姿が吉村昭らしい落ち着いた形で書きこまれている。ないものを一から作り上げる開発という仕事の本質も書かれていると感じた。ITやAIが技術の中心になっている現在だが、その根本はこうした地道な技術の積み重ねではないだろうかと感じた。2018/01/28
mondo
79
戦後まもない頃に胃カメラを開発した医者と技術者の物語だ。心臓移植の小説を書くための取材に南アフリカに行った際にケープタウンの病院で胃カメラが日本で開発されたものであることを知り、帰国後、現役で活躍している当事者に取材して書かれた長編小説。開発に関することは忠実な取材に基づいているが、主人公の私生活は、吉村昭の意向で創作したもの。これがまた良い味を出している。胃カメラと言えば、何度かお世話になっているが、確かに開発は並大抵ではないことは想像できる。吉村昭54歳の円熟した書きっぷりを味わってほしい。2022/07/16
バイクやろうpart2
76
吉村昭さん作品7冊目です。まず題名に惹かれました。頁めくるや否や、時間が惜しく電車降りたくないほどでした。今や当たり前の胃カメラですが、開発、製品化が如何に困難だったか?これに携わる医者、技術者の想いを通じ教えて頂きました。 戦後の混乱期、何もかもが不足する時期に、世界を席巻する技術の礎が出来たこと誇りに思います。2018/04/20