内容説明
乾いた南国での客死。ただそのためにだけ、やって来たスペインだった。彼と出逢い、あの鏡のような泉を目にするまでは…。海霧にけぶる釧路湿原と、償いきれぬ過去とを胸底に棲みつかせた女、顕子。妻に去られ、ひとり帰郷したアンダルシアで、オリーブ畑を守り続ける元・国際便トラック運転手、ミゲル。人生のたそがれ時の、微妙に揺れ輝く光のただ中に立つ男と女、その愛のかたち。
著者等紹介
原田康子[ハラダヤスコ]
1928(昭和3)年東京生れ。生後1年で父親の赴任地である釧路に移住する。釧路市立高女を卒業し、’45年、東北海道新聞の記者となる。’51年に同僚と結婚。’55年「北海文学」で連載していた『挽歌』が「群像」編集長の目にとまり、翌年に出版されて七十万部のベストセラーとなる
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感想・レビュー
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エドワード
15
私はスペインという国が大好きだ。灼熱のアンダルシア、荒地のカスティリア、洗練されたカタルニア。元々は別の国々だったので、人種の坩堝であり、髪や瞳の色も様々で、美術も音楽も素晴らしい。グラナダで出会ったミゲルと顕子。二人はそれぞれに数々の結婚や諍いを経験し、五十代に至ってこの地で恋に落ちる。人生の酸いも甘いも知った大人の愛。傷心の上、死ぬ思いで訪れた異国の地で再生する顕子。ピアノ教室や夜行列車。顕子のたどる昭和三十年代の北海道の生活が懐かしい。次々と現れるスペイン料理の数々。顕子の希望の象徴のようだ。2013/10/17
y_e_d
1
何という美しい話だろうか。ミゲルって理想的な男性像ではないか? 我がままというほかないつまらぬ理由で和彦を捨てたくせに、ああなっては死を覚悟するほど後悔し、純に逃げた顕子も、前半は、ああ、原田作品のキャラだなぁと感じたが、後半からはだいぶ印象が変わった。解説でも触れていたが、終盤の、生涯忘れないだろう・・・の一節は、この作品のハイライト。人間の弱さを内面からにじみ出るように描き出す筆致は見事としか言いようがない。2018/12/13