内容説明
北海道の霧の街に生いたち、ロマンにあこがれる兵藤怜子は、知り合った中年建築家桂木の落着きと、かすかな陰影に好奇心を抱く。美貌の桂木夫人と未知の青年との密会を、偶然目撃した彼女は、急速に夫妻の心の深みにふみこんでゆく。阿寒の温泉で二夜を過し、出張した彼を追って札幌に会いにゆく怜子、そして悲劇的な破局―若さのもつ脆さ、奔放さ、残酷さを見事に描いた傑作。
著者等紹介
原田康子[ハラダヤスコ]
1928‐2009。東京生れ。生後1年で父親の赴任地である釧路に移住する。釧路市立高女を卒業し、1945(昭和20)年、東北海道新聞の記者となる。’51年に同僚と結婚。’55年「北海文学」で連載していた『挽歌』が「群像」編集長の目にとまり、翌年に出版されて七十万部のベストセラーとなる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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遥かなる想い
181
舞台は北海道で、主人公の怜子という女性が、桂木という中年男性にかける情熱のようなものが正直怖かった。昭和30年代の本にしては、現代的な激しさと破滅的な展開を持っており、大ベストセラーになったそうである。釧路には今でも「挽歌」の文学碑があるそうである。文学作品の誕生が、一つの都市を生き返らせた…そんな時代が確かにあったのである。
あつひめ
74
自分の存在意義を確認するために人の心を掻き乱す…と言ったらいいのだろうか。繊細さとも違う心の弱さが怜子の中に潜んでる。なんとも後味がスッキリしない読後感。それは、まだこの登場人物たちが物語の中で生き続けているからかもしれない。人生の途中では自分たちの行いを振り返ることはできないのかもしれない。純粋に自分に心を向けてくれる人たちと怜子の中で燻る不安の塊。そんな人間のブヨブヨしたところが北海道の大地と似つかわしくないのが時代的に受け入れられたのか。どんよりとした空が似合うといえば似合うかもしれないが。2015/08/23
momogaga
60
再読。さまざまな愛を見せてくれる作品。特に今回は主人公の玲子と桂木夫人との愛を中心に読み込んでいった。その愛は悲劇を生むのだが、ロマネスクの世界では運命としか言えない結末だった。そして、その舞台となった道北のエキゾチックな風景描写がロングセラーの源泉になっていると思う。2015/12/29
優希
53
静かな世界観ながらも脆さ、残酷さを描ききっていると思いました。ロマンに憧れる怜子が憧れを抱いた桂木。夫人と青年の密会を見てしまってから、急激に夫婦の中に入り込んでいくのに怖さを感じました。桂木をどこまでも追う重苦しさ。恋愛の黒い一面を見たようです。2023/05/01
るい
42
戦後の北海道、冬の冷たさに心まで凍ってしまいそう。主人公の持つ穢れを知らぬ若さは繊細で傲慢でとてもきれいで研ぎ澄まされたナイフのよう、残酷な輝きに満ちていてふとした気まぐれで致命傷を負わせることにも気付けない。そして人生経験をそれなりに積んだ憂いはナイーブさと引き換えに深い闇を含んでいる大人の女性。慈しみに満ちた笑顔のうしろにそっと忍ばせるその危うさは何とも儚げで美しいのだろう。改めて生きる意味を考え出すと立っていられないほどの眩暈を起こす。それにしても回りくどい拗らせっぷりにくどい描き方、疲れたな笑2020/08/10