内容説明
時は21世紀、なお権勢を誇る元首相の邸宅に一人の青年が三十過ぎの男と共に乱入、声明文を読み上げると切腹した。事件の真相は謎に包まれたが、介錯され、胴体から切り離された青年テロリストの首は、最新の医療技術によって保存され、意識を取り戻す。首の世話を任された元首相の孫娘・舞と、首との奇妙な交流が始まった…。流麗な筆で描き出す、優雅で不気味な倉橋ワールド。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
174
独特の味わいを持つ小説だ。割腹直後に切り離された生首だけが、突然に語り手の舞のところにやってくる。グロテスクなものを想像しそうだが、実際は奇妙な明るさの中に物語は展開してゆく。それは、タイトルでもあり、また生首に名付けられた「ポポイ」という、なんともギリシャ的で晴朗な響きを持った音の故だろうか。なお、この「ポポイ」は、西脇順三郎の詩「野原の夢」の、「ああ きぬたの音がする おお ポポイ ポポイ」に由来する。つまり、小説は西脇へのオマージュでもある。そして、倉橋のこうした世界を継承したのが多和田葉子だ。2014/05/13
いたろう
42
首だけで生き長らえる青年ポポイ。見目麗しい男性の首を愛玩する自由闊達な女性の姿は、そのままヨカナーンの首に対するサロメの姿に重なる。そしてこのサロメは、コケティッシュな高畠華宵のサロメのイメージ。一方で、性が開放されたこの近未来の舞台にありながら、首だけのポポイの愛は必然的にプラトニック。人間のアイデンティティは脳の働きによるのか、身体が作りだすものなのか。人間の尊厳はどこに存在するのか。グロテスクさの中におかし味を湛えた倉橋ワールド。2014/05/22
安南
40
もともとサロメとか、ユディットとか、女子による首取り物語?が好きなこともあり、大変好みで興奮。ポポイ可愛い!しかも元テロリストで切腹後、介錯された首なんて最高!舞さんが羨ましい。三島の事件を想起するが、当然、小説内でもその事に触れている。三島の小説を「文章のヴィルトゥオーゾ」だと絶賛する舞さんの友人であり、桂子さんの孫娘の名は聡子。春の雪のヒロインの名と同じなのもくすぐられる。さて、こちらでの桂子さんは、桂子お祖母様と呼ばれ、元総理大臣の愛人という立場になっていた!2015/02/21
メタボン
38
☆☆☆★ 三島由紀夫のように声明文を読み上げ割腹した青年の首を引き取り、その首と暮らすという、シチュエーション自体がぶっ飛んだSFラジオドラマ作品。倉橋由美子だからこそ描ける世界観。もっと面白くなるはずの素材(特にエロスの方向で)だと思うが、中途半端に終わってしまったという感じは否めない。性器のないエジャキュレーション、言わば男の観念的なエクスタシーについて、ちょっと妄想してしまった。ギリシア悲劇も背景にあり、こちらの知識があればもっと楽しめたか。2021/02/21
もぐもぐ
37
元首相の前で切腹したテロリストの美青年の生首だけが機械で生かされ、その首をポポイと名付け愛でる孫娘の舞。二人の奇妙な交流。テロリストが祖父に要求した内容とは? グロテスクなシチュエーションにもかかわらず倉橋さんらしいエロテックで耽美的な世界。そこに潜む残虐さ。みんな美しく狂ってる。最後の言葉にゾクっとなる。2024/05/14