感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
280
【感想は「蛇」のみ】「蛇」は「文學界」(昭和35年6月号)が初出。時代を濃厚に反映した作品である。まず全体の構想はシュールレアリスムの装いを纏っている。それも、少なくても表面的には明るい趣きを持ったそれである。安部公房の一連の作品に似ていると言えるだろう。そして、作品が背負う時代状況は、70年安保の頃(すなわち学園紛争の時代)をこれまた如実に背負っている。それは今となっては滑稽にも映りかねないほどである。あるいは倉橋にとっては当時からそうだったのかもしれないのだが。 2025/01/16
ヴェネツィア
210
表題作は、倉橋由美子のデビュー作。あらゆる意味で、倉橋のすべてが詰まっていると言っても良い作品。斬新で、切れ味も抜群の、名刀を見る思い。タイトルからして、孤高の輝きを放つ。個の屹立とパルタイとの両立は、最初から成り立ちはしない。そこには、相克しかないのだ。しかも、「わたし」には愛も連帯もないし、必要としてはいない。したがって、それは時空をも軽々と跳び越えてゆく。まさに飛翔する小説だ。「非人」と「蛇」はカフカを想起させる短篇。「貝のなか」は、女が生理的なレベルで描かれ、最後の「密告」は、アポロン的な小説。2014/10/15
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
140
わたしの創造した蛇は「人間とはおかしなものですね」とわらった。こちらへいらっしゃいとまるで貞淑な妻のような貌で。わたしの創造した蛇はぬらりと白銀の煌めき。蛇の創造したわたしはあかく塗られた唇でおとこを誘惑したい。排泄物のまき散らされた街で当てもなくさまよう夜。蛇の創造したわたしはおとこの«革命»なるものにまるで貞淑な妻のような貌で粛々とうなづく。崇高なる«大義»よりもうみ落とされた吐瀉物をじっと見てしまうのです。わたしの創造した蛇は汚れなど触れたこともないような貌で美しくほほ笑む。蛇の創造したわたしは2020/04/08
かみぶくろ
112
倉橋さん初読。表題作を含む短編集だが、かなり難しい。フランス文学の影響が顕著で、ときにカミュだったりときにカフカだったりを想起させる文章だが、解説曰く、一貫したテーマは存在自体への羞恥・嫌悪だそうだ。なるほど〜と意味わからん‥が半々くらい。肉体的・生理的な描写と、時代柄かアジ的なセリフが混在する文章は迫力がある。背景情報も学んでいずれ再読‥するかな?2016/07/09
青蓮
61
「パルタイ」「非人」「貝のなか」「蛇」「密告」短編5作品収録。「聖少女」を以前読んで、作品の難解さに打ちのめされた過去がありますが、今回は割りと読めた気がします。中でも「蛇」が強く印象に残りました。まるでカフカの「変身」や「城」のような不条理の世界。ある時、突然、表が裏にひっくり変える――そんな怖さが根底にあるように感じました。倉橋由美子さんの作品は、自分には難解だけれども、それでも読んでみたいという不思議な魅力があるので、これからも読んでいきたいです。2015/07/24