内容説明
殺人容疑で捕えられ、死刑の判決を受けた兄の無罪を信じて、柳田桐子は九州から上京した。彼女は高名な弁護士大塚欽三に調査を懇願するが、すげなく断わられる。兄は汚名を着たまま獄死し、桐子の大塚弁護士に対する執拗な復讐が始まる…。それぞれに影の部分を持ち、孤絶化した状況に生きる現代人にとって、法と裁判制度は何か?を問い、その限界を鋭く指摘した野心作である。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909‐1992。小倉市(現・北九州市小倉北区)生れ。給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷札』が直木賞候補となり、1953(昭和28)年、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。’58年の『点と線』は推理小説界に“社会派”の新風を生む。生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、その守備範囲は古代から現代まで多岐に亘った
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感想・レビュー
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NAO
94
無実の罪で逮捕され、死刑判決を言い渡された無念は計り知れない。残される家族も同じ思いだろう。依頼したのに断った弁護士に復讐したくもなるだろう。だが、この話、真犯人は分かっていないままだし、復讐されたのは弁護士だけ。これでは、ピント外れではだろうか。妹は、兄のことで怒っているというより、自分の行為が受け入れられなかったことを怒っているように思えてしまうのだ。だって復讐すべきは、誰より先に、真犯人のはずなのだから。2020/11/22
goro@一箱古本市5/5
76
犯罪の真実が明かされるかは分からない。分からないまま誰かが冤罪に苦しむ事になったりするのだ。桐子の行動は誰が見ても理不尽だとは思うが、その理不尽は現実にも起こるだろう。そして真犯人が捕まったとしても桐子の想いは晴れることはないのだろう。冤罪も無くならないし理不尽も無くならないと清張御大はこの恐ろしい物語で示しているのだと思う。清張の人を見る目はどこまでも冷徹。2021/06/09
財布にジャック
70
いやはや、これ怖すぎて震えが止まりません。私もこの主人公と同じ女なのだと思うだけでぞっとしてしまいます。男の作家である清張に女の私でさえ思いつかないような女の怖さを教えられているようで、居心地の悪い厭な気分にさせられました。これでも褒めてます!それだけ女の心理を描くのが巧いってことです。しかし、もしもこれから弁護士を目指そうと思う人達が読んだとしたら、やめたくなるのではないかとそれだけが心配です。2013/04/04
キンモクセイ
64
ある日、柳田桐子という若い女性が九州から弁護士の大塚欽三の元にやって来た。兄を助けてほしいと。やってもいない殺人を自白させられてしまった。大塚は東京で一流だと言われているくらい有名な弁護士だ。報酬もかなり高額だ。とても桐子に払えるわけがない。どんなに懇願しようが受けてはもらえず断られてしまった。どうすることもできずに兄を失ってしまった桐子。東京をあてもなく彷徨し銀座の街を歩く人たちは幸せそうで誰もが裕福に見えた。正義とは何か?冤罪、富と名声、桐子のやり切れない思いが伝わってくる。これから長い復讐が始まる。2021/09/23
抹茶モナカ
63
人間関係が過疎化した村みたいに狭い。そんな濃密な関係性の中で、桐子の大塚への復讐が繰り広げられる。ものすごく一方的な復讐なんだけど、そういう物語を通して、当時の裁判制度に対して、意見しようとしたのかなぁ。怖い女の物語。2014/12/04