出版社内容情報
推理小説の第1集。殺人犯を張込み中の刑事の眼に映った平凡な主婦の秘められた過去と、刑事の主婦に対する思いやりを描いて、著者の推理小説の出発点と目される「張込み」。判決が確定した者に対しては、後に不利な事実が出ても裁判のやり直しはしない“一事不再理”という刑法の条文にヒントを得た「一年半待て」。ほかに「声」「鬼畜」「カルネアデスの舟板」など、全8編を収録する。
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稲岡慶郎の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青乃108号
151
続けて松本清張作品、今度は短編集。やはり古い作品だが読みやすい。各話共導入がうまく、すんなり物語に入っていける。限られた頁数の中で必要最低限な情報量でこれだけ中身の濃い物語を語り、見事に締めくくってみせる構成の見事さ。ワープロもパソコンも無い時代、原稿用紙に手書きというスタイルで、このレベルの小説を執筆する苦労は想像を絶する。俺は昭和の人間なので、懐かしい情景を目に浮かべながらつい夜更かしして没入してしまった。睡眠時間を削る価値は十分ある作品集だ。2023/05/03
ehirano1
105
なんとも唯々切ないです。2019/05/02
藤月はな(灯れ松明の火)
101
男の身勝手さと女のいじましさと冷酷さが融合したがため、破滅に突き進む姿で統一された短篇集。表題作は刑事の思いやりも分かるが、数時間しか、命を燃やせた女の今後を思うと切ないものがある。「鬼畜」は大人が揃いも揃って酷い分、生きた子供達には強く、生きて欲しい。そして性格がキツい私はどうしても「顔」や「声」、「地方紙を買う男」の作家や「カルネディアスの板」の男の身勝手さにフンと鼻を鳴らし、「一年半待て」の最後の男の言葉に「なんだい、甲斐性無しが」と思わざるを得ない。2017/05/27
mike
93
長編ミステリーは読み応えがあるが時として「長けりゃ良いってもんじゃないだろ」と突っ込みたくなる話もある。本当に筆力の秀でた作家というのは短編であっても中身が濃く、十分な満足感を与えてくれる。清張の作品は「ザ・昭和」。人物も風景も言葉も小道具も何もかも…それなのに時を超えて読み継がれ褪せないのは理由があるのだ。本書には8編の短編が収録されているが、どれをとっても傑作である。唯一残念なのは表紙のオジサン…2023/09/25
やも
90
短編集。昭和の推理小説だけど、今読んでも面白い👍人間の分かりやすい欲が書かれていても泥々にならず、かつ格好つけたキザな感じにもならないのが上手い。善悪や正義感を出しすぎずに読後に残る余韻。小粋だね。松本清張まだ2冊目だけど、短編集も全話ハズレ無しで安定の面白さ。2024/04/13