出版社内容情報
現代小説の第2集。朝鮮戦争のさなか、米軍黒人兵の集団脱走事件の起った基地小倉を舞台に、妻を犯された男のすさまじいまでの復讐を描く「黒地の絵」。美術界における計画的な贋作事件をスリリングに描きながら、形骸化したアカデミズム、閉鎖的な学界を糾弾した「真贋の森」。他に、一画家のなにげない評伝から恐るべき真実を探り当てる「装飾評伝」など7編を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょろこ
114
衝撃、の一冊。昭和が舞台の9篇。社会派推理小説の印象が強かった著者だけに、意外性と衝撃を味わった。一言で言うと底知れぬ人間の怖さを描いた作品だと思う。表題作「黒地の絵」は衝撃が半端ない。知らなかった、朝鮮戦争が九州の小倉にもたらした陰の事件。衝撃で掻き乱されるとはこういう事なんだなと実感する傍らで、恐怖と虚しさ、そして復讐の念を言葉にのせる松本清張の筆致にのみ込まれそうな感覚にも陥った。妻の不貞を疑う夫の復讐を描いた「確証」も衝撃。妻を追いつめるこの蛇のような夫が心底怖い。これぞ人が心に持つ毒だと震えた。2023/10/11
選挙ウォッチャーちだいそっくりおじさん・寺
93
小谷野敦の本に、松本清張は初期の短篇が良いとあった。昨年、清張の戦国武将アンソロジーを読んでかなり面白かったので現代もの(昭和半ばだが)にも挑んでみた。一読。これは相当に面白い!。推理ではない。筒井康隆が「松本清張の小説に出てくる人間はみんな悪人」と喝破していたが、確かに。保身や自意識、疑いや嫉妬で崩れる日常。イヤミスの元祖ではなかろうか。どの話も暗い情熱が光っている。私が好きなのは『空白の意匠』。悲惨だが喜劇の側面があり、物事はつくづく光の当て方だと思う。悲惨極まる『紙の牙』、私小説『草笛』みな面白い。2017/05/02
ふじさん
92
表題作「黒地の絵」は、米軍黒人兵の集団脱走事件の起こった小倉を舞台に、妻を犯された男の復讐を描いた重く辛い作品。「真贋の森」は、美術界における計画的な贋作事件をスリリングに描きつつ、形骸化したアカデミズムや閉鎖的な学界を糾弾した作品。一人の男の執念の物語。「装飾評伝」は、一人の画家の評伝から恐るべき真実をあぶり出す作品。「二階」「確証」は、夫や妻の不倫を扱う不気味な雰囲気の作品。どの短編も、暗い色調の作品だが、松本清張の見識の高さ、幅広いテーマや切り込みの巧みさを存分に味わえる。古さを感じない。 2022/09/22
じいじ
74
初期の短篇、9話どれも中身濃厚です。感想をどれにするか迷いましたが、夫婦が主人公の2篇を紹介します。【二階】すぐに病弱の夫に重なり、「オレにも間もなくの来るような気がして」と目頭が熱くなった。夫のわがままで療養所を強行退院して、自宅療養に。妻の発案で出張看護婦が来ることに…。三人の生活が、いまは妻が切り盛りする印刷屋の二階で始まります。妻の嫉妬と疑心暗鬼は予測通りだが、気になる結末…。【確証】「妻は不貞を…」不穏な書き出しで幕開け。中堅サラリーマン夫婦の話。妻の不倫? 夫の妄想は無限に膨らんでいきます。2025/02/05
hatayan
61
1950年に北九州で起きた米軍黒人兵集団脱走事件を題材にした表題作が秀逸。朝鮮戦争の最前線に送られて犠牲になることを運命づけられた黒人兵が暴動を起こし、妻を犯された男が加害者を探そうとするまで。戦場に近い九州の港湾で行われていた戦死者の防腐処理など生々しい記述も。その他、師匠の機嫌を損ねて学会を追われた主人公が子飼いの画家に贋作を作らせ復讐を試みる『真贋の森』、市職員を揺すって恥じることのない厚顔の新聞記者を描く『紙の牙』、スポンサーに配慮した紙面作りに消耗する新聞社の広告担当者を描く『空白の意匠』など。2020/11/02