出版社内容情報
「松本清張傑作短編集」は、現代小説、歴史小説、推理小説各2巻の全6巻よりなる。本書は現代小説の第1集。身体が不自由で孤独な一青年が小倉在住時代の鴎外を追究する芥川賞受賞作『或る「小倉日記」伝』。旧石器時代の人骨を発見し、その研究に生涯をかけた中学教師が業績を横取りされる「石の骨」。功なり名とげた大学教授が悪女にひっかかって学界から顛落する「笛壺」。他に9編を収める。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
282
松本清張といえば、『砂の器』などに代表される推理小説、あるいは社会派小説、また時には時代小説もといった多彩な作家だが、出発は純文学だった。本書収録の表題作「或る『小倉日記』伝」は第28回(1952年下半期)の芥川賞受賞作である。森鷗外の小倉時代の事績をめぐる物語であるが、小説としての完成度はきわめて高く、新人のものとは思えない。また、後年の清張の特質が既にここに胚胎している。すなわち、一つの手がかりが次の行動を生むといった、いわゆる探偵小説の技法と、市井に埋もれていた田上耕作に光を当てたことがそれである。2015/04/03
遥かなる想い
253
第28回(1952年)芥川賞。 森鴎外の小倉時代の日記を題材にした 作品である。 田上耕作という人物造形には 後年の松本清張の 片鱗がうかがわれる..社会的に恵まれない者が 周りに冷たく あしらわれようとも 必死に生きる..その様を骨太に描くのが本当にうまい。 大作家の若き日々を読んだ、そんな感慨に 浸れる本だった。2017/06/22
青乃108号
165
推理小説ではない、松本清張の短編集。少しずつ読んでいたらえらく時間がかかってしまった。短編なのに濃い。ここには幸せな人生は無い。あるのは人間の執念、情念、諦念、その他人間の不幸の味三昧。他人の不幸は蜜の味とは言うが、もう十分ですお腹一杯です。続けて読むとえらく疲れるので1日1話ずつ読むのが吉。2023/06/30
じいじ
90
何十年ぶりに読む松本清張です。鴎外の実話をモデルにした、受賞作の【或る「小倉日記」伝】は、これまでの清張小説にない新鮮な感触だった。喋りに難をもつ息子・耕作を懸命に支える母親・ふじの汗と涙の話です。自分への再婚ばなしには耳もかさず、ひたすら息子の一本立ちを願って尽くす母親の一途さに、幾度も目頭を熱くしました。途中、母も息子の嫁にと願った、耕作の失恋で母子の絆は一層深くなります。たった50頁の短篇なのに、200頁もの長編を読んだ充実感に浸りました。読み終えて分かった、納得の芥川賞作品です。2023/07/12
Kajitt22
80
松本清張初期の現代小説短編集。どれも書き出しは叙情を排した重厚な文体で引き込まれる。物語は障害や貧困等コンプレックスを語るものが多く、全体的に暗く救いがない。後の社会派推理作家の片鱗が見えるかもしれない。表題作『ある小倉日記伝』は素晴らしかったが、同じ色調の作品が続き、少し気持ちが晴れない。2022/04/26