内容説明
中学に進学した次郎は、兄恭一とその友人大沢らの感化で人生を深く考えるようになった。誤解が生んだ思わぬ事件から、次郎は朝倉先生の人柄に感銘を受けるが、時代は、しだいに軍国主義の影が濃くなり、自由を重んずる朝倉先生は辞職を勧告される。次郎たち中学五年生は、留任運動を計画するが…。苛酷な運命に負けず、自己を磨いてきた次郎は、最大の試練を受ける。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みっぴー
42
幼少期の祖母のいびり、母親とのギクシャクした関係が次郎に与えた影響は、必ずしもマイナスであったとは言えません。不条理な仕打ちを堪え忍んだ次郎は中学で運命の師である朝倉先生に出会い、一気にその花を開花させます。正に哲人中学生。持ち前の正義感の強さゆえ、上級生や教員と衝突することもしばしば…。しかし朝倉先生は決して答えを教えたりせず、指針を与えるだけ。次郎はまるで人間卒業試験に挑んでいるかのようでした。人間を超越した朝倉先生でも軍国主義に傾く時勢という化物には敵わず、学校を去ることに…下巻へ。2016/07/08
aponchan
22
同年代の子供を持つ親として、興味深く読むことができた。上巻の感想でも書いたが、中学生の頃に読んだとき、どのように感じたのか覚えていないが、今とは全く違うとらえ方をした気がする。当時、何かに共感して複数回読んだ数少ない本の一つだったと思うので、次郎に甚く共感して、自分も学校をやめたいくらいのことを思ったかもしれない。中身は理解していなかったからそのように考えたのだろうが。下巻に進もうと思うが、巻末の筆写の付記がこの作品に対する思い入れを感じ、その思いが詰まっていることを共感できている。2022/01/02
まーみーよー
19
中巻は次郎の中学時代の第三、四部。次郎にとって「人生の師」と言える朝倉先生と出会い、白鳥会入会により自己を深く掘り下げてゆく時期である。「白鳥芦花に入る」という先生の言葉が彼の心に刻まれる。白鳥会入会から彼はより思慮深く成長するのだが、時代は五一五事件後の日本。自身の信念を貫くことは危険でもある。危険思想ととられた朝倉先生は学校を去り、朝倉先生留任運動を率先した次郎は中巻の最後に大きな決断をする。次郎の父は、次郎にとってもう一人の「人生の師」だ。親として次郎の決断を支える。こんな親にはなかなかなれない。2020/09/25
ももたろう
18
人生の問題とぶつかるたびに、真正面から向き合い、その度に思慮深くなる次郎の姿が随所に見られた。社会の不正を前に一切妥協を許さない姿勢。例え退学になったってかまわない次郎。加えて、それを広い心で後押しする父親。その辺りがとても印象的。最も印象に残ったのは「仁にあたっては師に譲らず」「白鳥芦花に入る」という2つの言葉。全体の調和を考え、たとえ自分が正しくても、相手のために謝れるか。何かの不正を正す時、功名心ではなく、目立つのでもなく、純粋な感情の発露と仁により行動できるのか。この辺りが大きなテーマだと思った。2019/04/30
紅花
14
半世紀も生きているのに、つい次郎の行動を衝動的な応援したくもなり、やられてしまう次郎を残念にもなってしまう。まだまだ私は朝倉先生や俊亮にはなれないとしみじみ感じる。次郎が求める「真実」「ミケランジェロの鑿」を持つには・・・世の中の善と悪の基本は決まっているはずなのに、そこに絡み合う人間の欲望。その中でもがく次郎の描写と心の成長が素晴らしい。そして、軍国主義へと傾く時代に、真っ向から対決することを「よし」とせず、そのエネルギーを維持し使う方法を解く朝倉先生の思想に、今の日本を思う。2015/08/31