出版社内容情報
命をなげうって探し求めた真の祖国。その旅路の果てに待つものは――。日系米人が背負った十字架を、徹底した取材で描ききった一大叙事詩の幕が下りる。
極東国際軍事裁判の苛烈な攻防戦も終盤を迎え、焦土の日本に判決の下る日も近い。勝者が敗者を裁く一方的な展開に、言語調整官として法廷に臨む賢治は、二つの祖国の暗い狭間で煩悶する。そして唯一の慰めであった梛子の体に、いつしか原爆の不気味な影が忍び寄る……。祖国とは何か。日系米人の背負った重い十字架を、徹底的な取材により描ききった壮大な叙事詩の幕が下りる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
95
東京裁判も終盤に差し掛かり、日本にどのような判決が下されるのか、その日も近づいてくるのに精神的に追い込まれていきました。勝者が敗者を裁く展開は一方的ですし、2つの祖国の闇を見せつけられて苦しさすらおぼえます。日系人という宿命が背負った十字架は重く大きいものだったように思いました。命がけで探した真の祖国。その先に見えたのは救いのない世界でした。2つの国の間で苦しみ、両国の理不尽さの中で必死に生きる人々。辛さを感じながらも圧倒的に読ませる力に引き込まれていました。2016/02/18
崩紫サロメ
64
前巻に続き、モニターとして東京裁判に関わる賢治。その中でこれが戦勝国による一方的な断罪であると感じるが、モニターとして、またアメリカ人としてそれを口にすることは反逆に当たるゆえ、苦悩し、実際にアメリカへの忠誠を問われる。かといって日本では「アメ公の日本人」と呼ばれる。賢治とは結果的には正反対の生き方を選ぶチャーリーも、日系2世として、また広島出身者として2つの祖国の間で苦悩を抱えているというところが描かれているのが、全編を通してよかった。2021/03/18
ころりんぱ
61
思わず天井を見上げため息をついてしまったラスト。山崎豊子さんが5年かけて書いた長い長い作品でしたが、このラストの虚しさ切なさが、戦争の残酷さを象徴しているなと思いました。東京裁判の裏事情や、粛々と行われた死刑執行の状況まで、綿密な取材で描かれていてとても勉強になりました。戦犯として裁判にかけられた人たちの家族たちの心理もこの本で初めて慮れ、いわゆる東京裁判を様々な角度から考える事ができました。私たちは学校教育で、時代と出来事でしか戦争のことを学ぶことができていないんだな、と改めて思いました。2014/12/18
おたま
55
極東国際軍事裁判にモニターとして参加した天羽賢治は、次第にこの裁判は勝者の敗者に対する見せしめの裁判ではないかと思い始める。裁判の最後に、賢治は判決を通訳して日本人被告に伝える。特に文官であり、軽微な刑であろうと思われた広田弘毅に対して「絞首刑」と伝えたときに、自分の行ったことに罪悪感を覚える。さらに、愛し合っていた井本梛子を、アメリカによって投下された原爆被爆による白血病で亡くす。日系二世アメリカ人として生きてきた自分の居場所を次第に見失っていく。賢治は日本とアメリカという「二つの祖国」に引き裂かれる。2022/03/13
taiko
55
東京裁判は判決を迎える。 賢治の愛した梛子にも不幸な運命が待ち受ける。 3巻から引き続き東京裁判に翻弄されました。 判決の重さ、その判決を通訳として言い渡すことになった賢治の苦悩。 梛子との別れ、家族との不和、そして東京裁判、それらが賢治を壊していく。 日系二世としてアメリカに忠誠を尽くすも、日本人としても心を強く持ってしまった賢治には、余りにも酷な運命でした。 衝撃のラスト、賢治の選んだ最後が悲しい。 まだ幼いアーサーが心配です。 2019/04/15