内容説明
本当にあの人だけは愛しつづけました―“わたくし”が愛した女には、夫がいた。学生時代、京都の下宿で知り合ったときから、“わたくし”の心に人妻へのほのかな恋が芽生え、そして二十余年。二人は心と心の結び合いだけで、相手への純真な愛を貫いた。ストイックな恋愛を描き、ゲーテの『ウェルテル』に比較される浪漫主義文学の名作。英、仏、独、中国語など六カ国語に翻訳された。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
116
サンマルクカフェで読んでいたので、結末では涙をこらえるのに苦労した。日本の恋愛小説の屈指の名作。主人公は、結婚している一人の女性を純粋に愛し続ける。相手の方も彼のことも憎からず想っているのだが、二人の結びつきはプラトニックなままで終わる。主人公の男性の人生は、みじめなものにも思える。しかし、私は彼ほど幸せな男はいないと思った。これほど純粋な気持ちで、一人の女性を愛することができたのだから。結末は本当に悲しい。好きな人に死なれるほど辛い経験はない。それ故に、最後の主人公の祈りが強く胸を打つ。2017/10/09
ミカママ
88
残念。あまりにも非現実的、そして時代が違いすぎ。私の感性からはこの男女に感情移入することは出来ませんでした。あき子は男性の心を弄び、主人公竜口は、ストーカーになり、自分が結婚した女性を不幸にした挙句、冬山に篭っちゃうんですか?!ラストも...ご都合主義的、かなぁ。やっぱり男性作家の書いた恋愛小説は合わなくなってきてるのかも。2015/06/25
YM
86
二人の間には不倫であるという後ろめたさがあり、そこをぎりぎりのところで乗り越えないようとする倫理観がある。だからこそ魅かれ合う。絶対に交わらない関係こそがすべてだった。痛々しくもロマンティックで、僕の感情は相当に揺さぶられた。2015/05/05
hit4papa
79
昭和13年発表の純愛(?)小説。7つ年上の人妻に愛を告白された21歳の青年が23年間、懊悩の日々を送るというお話しです。女性の熱情が落ち着いてくるのと反比例して青年の愛情は燃え盛ります。女性からの数年置き四度の拒絶もなんのその、途中、青年は意にそぐわぬ結婚をするものの、思いは消え去ることはありません。当時の読者に広く受け入れられ、海外で高い評価を受けたそうですが、どうにも甘ったれた感が否めません。厳冬の山籠りで世間と孤絶しようと試みるも、うまくいかずと、情けなし…。この執念は愛と呼んで良いものなのかしら?2022/12/27
seri
66
「忘れじの行く末までは難ければ」千年も前からそう詠われるほどうつろいやすいのが人の世の常。そんな常などものともせず、夫のある人をひたすら純粋に自身の生きる意味をかけて愛し抜く。愛とはなんて激しく静謐で、狂おしく孤独で、痛いほど甘美なものなのか。「愛欲の垢尽くれば道見ゆべし」一切の愛欲を越え、どこまでも魂でその一生で、その人だけを想い続けたそれは信仰にも似て。夕暮れの色を濃くする白き夕顔、琴座は月の如し、天体は嗚咽し、夕顔は夜空に帰る。そして澄み渡る寂寥。冒頭の和泉式部の歌の情景が重なり、読了後に胸に響く。2015/09/14
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- 忘れた恋のはじめ方