出版社内容情報
井上 靖[イノウエ ヤスシ]
著・文・その他
内容説明
日本征服の野望を持つ元の世祖フビライは、隣国の高麗に多数の兵と船と食料の調達を命じた。高麗を完全に自己の版図におさめ、その犠牲において日本を侵攻するというのがフビライの考えであった。高麗は全土が元の兵站基地と化し、国民は疲弊の極に達する…。大国元の苛斂誅求に苦しむ弱小国高麗の悲惨な運命を辿り、“元寇”を高麗・元の側の歴史に即して描く。
著者等紹介
井上靖[イノウエヤスシ]
1907‐1991。旭川市生れ。京都大学文学部哲学科卒業後、毎日新聞社に入社。戦後になって多くの小説を手掛け、1949(昭和24)年「闘牛」で芥川賞を受賞。’51年に退社して以降は、次々と名作を産み出す。「天平の甍」での芸術選奨(’57年)、「おろしや国酔夢譚」での日本文学大賞(’69年)、「孔子」での野間文芸賞(’89年)など受賞作多数。’76年文化勲章を受章した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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新地学@児童書病発動中
104
元寇を高麗の人びとの目を通して描いた作品。大国の元に翻弄される高麗の姿は悲惨で、救いがない。13世紀ごろの東南アジアの物語だが、この小説で描かれる大国対小国の図式は、あらゆる時代のあらゆる地域にあてはまり、普遍的な内容を持った作品と言えるかもしれない。当時の文献が読み下しの漢文のまま挿入されているので読みにくい箇所が多い。それでも透徹した文章には魅力があり、詩人としての井上靖が顔を覗かせていた。人物を描くというより、歴史の流れの非情さをタペストリーして描こうとする作品だと思う。2014/05/10
chanvesa
40
絶望的なまでに支配され蹂躙される高麗の苦悩。そして洪茶丘のスタンスがなぜ祖国に冷酷でありえたのか。その背景は明かされない。内面的な感情の要素はこの小説では排される。その鋭い眼差しの奥に何があったのか。王や、李蔵用、金方慶ら臣下たちは絶望的な状況下で何が国家や民のために最適であるかを探り、言葉を発する。そしてフビライの支配者としての不気味さ、解を見いだすことを避け、狂暴な支配を敷く政治家としての恐ろしさ。引きずり回されるような重苦しさと漢文の読み下し文が差し挟まれることで、息が詰まりそうになる。2016/01/03
Gotoran
38
西暦1259年高麗は高宗王の時代、元のフビライ汗は属国高麗の犠牲のもとに日本侵略を構想する。その計画は高宗の息子元宗の時代に至るまで継続し、1294年フビライの死去で頓挫するまでの35年に亘って高麗の人々を苦しめた。その歴史を当時の文献を引用しながら描かれる。フビライ汗と高麗王との書簡のやりとりが頻出するが、その内容が漢文の日本語読み下し文であることから、若干読み辛さを感じた。大国に征服された小国の痛みと苦悩、そして強大な独裁者の信念の強さを感じながら読了した。読み応え十分だった。2024/09/28
金吾
38
○強国に隣接する弱小国の苦悩と悲劇がよく伝わります。国際関係では力は正義なのかなとも思いました。現代は海が障壁にならないので、高麗の状態は参考にデキルト感じました。フビライのパワーにも圧倒されました。2022/03/21
金吾
29
○大国に翻弄される小国に悲哀を見事に書いている作品です。この時の高麗の対応と苦悩は現代の日本にとり参考になる話だと思いました。2025/02/19
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