内容説明
天平の昔、荒れ狂う大海を越えて唐に留学した若い僧たちがあった。故国の便りもなく、無事な生還も期しがたい彼ら―在唐二十年、放浪の果て、高僧鑒真を伴って普照はただひとり故国の土を踏んだ…。鑒真来朝という日本古代史上の大きな事実をもとに、極限に挑み、木の葉のように翻弄される僧たちの運命を、永遠の相の下に鮮明なイメージとして定着させた画期的な歴史小説。
著者等紹介
井上靖[イノウエヤスシ]
1907‐1991。旭川市生れ。京都大学文学部哲学科卒業後、毎日新聞社に入社。戦後になって多くの小説を手がけ、1949(昭和24)「闘牛」で芥川賞を受賞。’51年に退社して以降は、次々と名作を産み出す。「天平の甍」での芸術選奨(’57年)、「おろしや国酔夢譚」での日本文学大賞(’69年)、「孔子」での野間文芸賞(’89年)など受賞作多数。’76年文化勲章を受章した
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感想・レビュー
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遥かなる想い
168
古代日本では、唐に留学するのは超エリートだったのだろう。鑑真来朝における日本の雰囲気を今に伝えてくれる名作。2010/08/13
エドワード
127
苦難の末来日し唐招提寺を開く鑑真の物語。遣唐使船に乗り合わせた四人の僧侶。鑑真の招聘に尽くす普照と栄叡。還俗して唐人の妻と暮らす玄朗。唐の聖地を巡り、天竺をめざす戒融。先に渡唐し、夥しい量の写経を続ける業行。彼らは各々の意思で異国の地で必死に生きる。二十年後、普照ただ一人が鑑真とともに帰朝した。シルクロード大好き少年だった私は、この作品を中学生の時に最初に読んだ。高校二年の時に映画化され、観にいったのだが、高校の団体鑑賞があってもう一回観た。業行の写した経典が海に沈み漂う光景があわれだった。2012/10/15
藤月はな(灯れ松明の火)
122
遣唐使。それは海が荒れ狂い、風が味方しなければ、目的の地までたどり着けずに海の藻屑になってしまったりする危険な旅路でもあった。そんな中、国難を仏法で救うべく、派遣された若い僧たちがいた。最初はいけ好かない性格だった普照が歳を取り、仲間の悲願や志半ばでの死、経典の喪失を見届ける事でどんどん、人間としての滋味が出てくるのが魅力的。しかし、やっとの思いでたどり着いた日本は、仏法をそれ程までに欲してはいなかった。それでも普照が日本の僧と舌鋒を経り、唐での甍を受け取った際に至るまでの過程とその境地を思うと・・・。2019/06/29
chantal(シャンタール)
110
本を閉じ、唐招提寺の金堂の静かな佇まいを思い出してみる。この寺院を創建した鑑真、そしてその招聘に尽力し、異国の土となった人の情熱を思うと胸が熱くなる。情熱意外の言葉が思い浮かばない。天平の時代、海を渡ることがどれだけ危険なことであったか。「日本に正しい授戒制度を」、その一念のみのために数度の失敗にも負けず、艱難辛苦の果てについに日本へ渡った鑑真には布教の裏に黒い野心を隠すような事もなく、純粋に仏教のために来日し、そのまま日本の土となった。唐招提寺の屋根、それは正に「天平の甍」、仏教の甍である。2019/07/08
十川×三(とがわばつぞう)
102
鑑真の来日が、どれ程困難で命懸けで、日本仏教界にとって重大な事件であったかを知る事ができる。▼高僧の渡航を妨害する弟子。船が高確率で沈没する時代。研ぎ澄まされた井上靖さんの文章による壮大なドラマ。唐招提寺が特別な場所となった。紛れも無い名作。▼追記:2022年5月、ようやく念願の唐招提寺に行けた。鑑真廟で手を合わせた。2020/03/04