内容説明
草を薙いで野火の大難を防いだといわれる神剣―草薙の剣。12歳から62歳まで、6人の男たちとその父母、祖父母が経験した、戦前、戦後、学生運動、オイルショック、バブル、オウム事件、2回の震災、そして現代まで、そこに生きる人間の姿をつぶさに描くことで、「時代」という巨大な何かを立ち上がらせた奇跡の長編小説。知の巨人にして時代の感性だった橋本治の文業40年の結晶。野間文芸賞受賞。
著者等紹介
橋本治[ハシモトオサム]
1948‐2019。東京生れ。東京大学文学部国文科卒。イラストレーターを経て、1977(昭和52)年、小説『桃尻娘』を発表。以後、小説・評論・戯曲・エッセイ・古典の現代語訳など、多彩な執筆活動を行う。2002(平成14)年、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』により小林秀雄賞を、’05年『蝶のゆくえ』で柴田錬三郎賞、’08年『双調平家物語』で毎日出版文化賞、’18年『草薙の剣』で野間文芸賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ベイマックス
74
冒頭に10歳づつ違う6人の登場人物が発表される。さらに、6人の両親の生い立ちから語られる。人物が変わるごとに、関東大震災以前頃からの時代背景と歴史的事件が行ったり来たりで語られる。少し混乱する。そして、この小説は何なのだろう?大正・昭和・平成の戦中戦後の統括なのか?エピローグの最後、『「自分はなぜこんなところにいるのだろう?自分のいる、この暗い所は何なんだろう?」と、改めて思った。』と締めくくられている。作者も含めて多くの現代日本人が抱えている思いなのだろう。◎また、どうしてこの題名なのだろう?2022/02/27
優希
38
野間文学賞受賞作。12歳から62歳までの男たちと、彼らの両親や祖父母たちの経験が語られています。それぞれが生きたそれぞれの時代。淡々と物語は進みますが、奇跡のような長編小説になっているように思えました。孤独で淡々と進む物語ですが、「時代とは何か」を考えさせられます。静かに流れる時間に酔いました。2024/11/30
武井 康則
18
「二十世紀」を書いた著者が、流れる現代史を書きたかったのだろう。10年ごとの6家族で戦中から平成までを描く。その家族に接点はない。事件にも直接かかわらない。6つの短編でなく同時に描くため、時には読みにくくなる。注目すべきは解説。末木文美士は作品の構成から他の評論評価まで引用しすばらしい解説にしている。その解説で本書を失敗作だという。確かに特に最終章など、無責任としか思えないが、力作であり、無駄な作とは思えない。文学的には失敗でも、あって良い作品だ。2022/05/14
なをみん
6
自分より少し先に生まれた知ってる人の知らない時代の日常感覚をドキドキしながら読んだ。ああ、あの時代の父はこんなかんじで家庭をつくったのか。あの時代の母の世界はこんな感じだったのか。自分の通ってきた時代のリアルで普通の話もドキドキして読んだ。数時間を読書で過ごして読み終えて人生経験を数頁分だけど積んだ気になった。彼の本は小説以外で読むことが多いけど、やっぱり橋本治らしいなあ凄いなあと思った。2022/10/24
shouyi.
6
舞台は現代、主人公は10歳ちがいの男6人。彼らには何の接点もない。そして最後までまったく関わる事も無い。語られるのは、彼等と彼等の両親、或いは祖父母も含めた3代の歴史だ。彼らの個人史が社会の流れの中で語られる。別に歴史に名を残すでも無くどこにでもあるような生活との格闘。そして死んでいく。6人全ての歴史が刻まれるが、そのうちだれがだれなのか区別がつかなくなった。改めて橋本治という人は小説家だったんだなあとその力量を感じた。本当に残念でならない。2021/02/09