内容説明
精神科医である私の診療所のドアを、ある日、美しい女が叩いた。この患者は、兄との近親相姦で得たオルガズムの衝撃から抜け出せず、恋人とも愛し合うことができない不感症に思い悩んでいるというが、何か怪しい―。言葉に嘘の気配を感じながらも、彼女の美貌と気まぐれに翻弄され、治療は困難を極める。女性心理と性の深淵をドラマチックに描く異色作。本作刊行前後、三島はノーベル文学賞の有力候補だったことが後に判った。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぼむ☆
18
三島の書く音楽の小説とはどんなものだろうという興味からこの本を選んだが、それはミュージックにあらず。『女性のエクスタシー』の比喩だったのだ。音楽が聴こえない(不感症の)麗子を診察する精神分析医の手記の形をとった小説である。麗子に巣食う原因を探っていく過程はあたかも推理小説のようであり、そして最後にはしっかり解決される様は娯楽作品としても大いに楽しめた。また主人公の心理分析が非常に巧妙であり三島が作家であることを疑ってしまう。性的テーマを扱った内容ではあるがいやらしさはなく、また文体の素晴らしさは三島だ。2022/02/28
優希
14
面白かったです。精神科医の手記という形で物語が進むのは、三島にしては珍しいと思いました。少女期に兄と近親相姦に陥り「愛」のオルガズムを味わったことで、恋ができなくなった麗子の自我に翻弄される汐見医師。これは女性の性の複雑さ故の物語なのでしょう。悪魔的魅力の異色作と言っても良いと思います。2024/04/26
銀の鈴
14
澁澤龍彦の解説の文章が意外にもすこぶる読みやすくいことが印象的。本作品は三島由紀夫の中でも少し独特なカテゴリもしれませんね。2023/04/07
ふくしんづけ
11
「音楽」という、触れざる他人の性への、慎ましやかなアプローチがまた、いいのである。これを思うと、いかに傲慢に、頭の中であけすけに、人間の性を玩具に、偶像ですよと言い訳して、人形ごっこに興じるの多いことか、と思わざるを得ない。それから、「分析室」という場。このふたつがこの作品において、すごく、効いているのである。主人公の汐見は終盤まで、この部屋をでることがない。代わりに、医師の元には麗子からの手紙が届き、読者はそこから外の世界へでることができる。この舞台設定のコントロールぶりが凄まじい。2022/05/13
asuwanna
7
面白かった…!三島作品には珍しく平易な文体で、頭脳の平凡な読者である自分にもとても読みやすく最後まで一気に読めました。難しい比喩表現が連続しているような作品だと、理解できなくて頭が混乱して読み疲れる&自分の頭の出来の悪さに自己嫌悪に陥ることが多々あるのですが、この作品に限ってはそれが皆無だったので、自己肯定感を保持できて満足できる読書体験でした。金閣寺、仮面の告白、短編集と来て、少し疲れてこの作品で頭をほぐした後は、再びガチな作品に戻ろうか。2023/11/02