内容説明
三島が初の小説「酸模」を書いたのは、日中戦争が本格化していく1938年、13歳の時。本書は、以降時代の流れにそって各年代から9篇を精選した。二十代の作品からは奇癖をもつ女を描く「手長姫」や、兄妹の異様な短篇「家族合せ」、虚ろな日本人の姿を切り取った「S・O・S」、三十代は技巧冴える「魔法瓶」、怪談「切符」、四十代の問題作「英霊の声」など。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あすなろ
85
三島氏が13歳にて書いた酸模から始まる、高校時代に読み耽った三島氏新潮文庫未収録短編から始まるこの一冊。たった18頁にて三島氏ならではの独特の比喩に魅了される。澄み切って湖底の砂が数えられるような、清さ。この一冊は、三島氏の年代別の新潮文庫未収録短編が順に編まれた一冊。久しぶりに浸りました。来年は少しずつ再読していこうかな、三島文学。高校時代とは違って今だから得られるものがあるかもしれないと思った一冊。特に巻頭だからか、上述の酸模にはやられました。そして、三島氏の変遷を辿っていける貴重な一冊でもあります 2020/12/31
佐島楓
68
13歳のときに書かれた小説「酸模(すかんぽう)」。高らかに若さをうたい上げる、一編の美しい詩のような作品。その後書かれる「家族合せ」「手長姫」などに比べると明らかに稚いのだが、それが一瞬の尊さをみせる。その後は年代順にテクニカルになっていくのがありありとわかり、「英霊の声」で閉じる構成が何とも言えない。2021/03/20
優希
64
『酸模」を書いたのが13歳というだけで驚かされました。その後も年代別に、未発表だった作品がおさめられています。それらの色彩の贅沢さが魅力でしょうか。2021/07/17
HANA
63
13歳から41歳まで、10代から40代のそれぞれの時期に書かれた短編を収録。まずは冒頭の「酸模」に打ちのめされる。13歳でこの文章が書けるというのは才能という言葉じゃいい表せない。同時にそこに存在する人生に対するロマンティズムは41歳の「英霊の声」にある英霊の行動をロマンティズムで理解しようとする部分にも通じているように思えて、本書一冊で何となく三島文学に通底するものに触れられるような気がする。読みたかった「英霊の声」は理性は兎も角、感情では身震いする出来。ただ怪談読みとして面白かったのは「切符」だけど。2020/11/17
こばまり
55
公威少年13歳の処女作に始まり、年代を追って多彩な作品に次々と触れるのはにょきにょき育つ樹木を見上げるようで清々しい。最後の『英霊の声』で笑顔も引っ込む寸法だ。保坂正康氏の、時代の証人ではなく自ら時代の証にという解説が大いに腑に落ちた。2020/12/05