内容説明
兄妹相姦から心中に至る悲劇「熱帯樹」ほか「薔薇と海賊」「白蟻の巣」等代表的戯曲3編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
233
三島由紀夫の30代前半に初演された、今ではややマイナーな戯曲3篇を収録。『白蟻の巣』は、幕切れが幾分もの足りない気はするものの、いずれも構成の妙と、緊張感が途切れることなく持続する、実に濃密なお芝居だ。散文作品では華麗な情景を描き出す三島だが、こうした戯曲では登場人物のセリフだけで物語世界を構築していくのであり、また別種の才能や工夫が必要だろう。そして、戯曲を読むと、三島の真骨頂はむしろこちらにこそあるのではないかとさえ思えるのだ。表題作の『熱帯樹』で描かれる兄妹の近親相姦の情念の表出は、とりわけ見事だ。2012/10/21
Gotoran
49
三島の戯曲『熱帯樹』「薔薇と海賊」「白蟻の巣」の三篇を収録。表題作品について、以下に。莫大な財産を獲得するために夫を息子に殺害させることを企む妻。その計画を知った娘が愛する兄に母親を殺害させようと‥‥。父性愛や母性愛の欠如から愛と憎しみが交錯する親子・家族関係の崩壊や人間性の奥深さが描かれていた。読み応え充分だった。2021/10/01
優希
47
戯曲集です。ギリシャ的で芳醇な空気を感じました。兄妹相姦からの心中、童話的恋愛、愛憎姦通劇といった三島文学の軸を成す事柄が全ての作品に貫かれており、悪徳の美しさがあるような気がしました。2023/12/04
けぴ
40
戯曲は読むのが苦手な気がしていたが、本書は100ページ前後の作品3遍で読み易い。どれも登場人物が少なく長台詞がないためと思われる。実際にヨーロッパであった事件をもとに、兄妹相姦と父親殺しを絡めた「熱帯樹」が一番のおすすめ。女童話作家と白痴男の恋愛を描く「薔薇と海賊」、ブラジルを舞台に4人の男女の複雑に絡み合う恋愛感情を記す「白蟻の巣」も読み応えありました。2025/01/05
まめこ
28
★★★★★饐えた臭いを撒き散らす戯曲3編。息子を煽動し夫の殺害を企む律子、息子が向ける妻への愛に嫉妬する恵三郎、母と妹の肉欲に惑う勇、兄の愛を利用し母の殺害をねだる郁子。病みついた郁子の妄想かと思いきや!しかしよくこんな皮肉な名前をつけたものだ(笑)。純潔童話作家と白痴の青年による夢のない愛「薔薇と海賊」、雇い主夫婦と運転手夫婦の空虚な姦通「白蟻の巣」。どれもシュールで痛々しい結末が最高2022/04/17