内容説明
元禄期の名優坂田藤十郎の偽りの恋を描いた『藤十郎の恋』、耶馬渓にまつわる伝説を素材に、仇討ちをその非人間性のゆえに否定した『恩讐の彼方に』、ほか『忠直卿行状記』『入れ札』『俊寛』など、初期の作品中、歴史物の佳作10編を収める。著者は創作によって封建性の打破に努めたが、博覧多読の収穫である題材の広さと異色あるテーマはその作風の大きな特色をなしている。
著者等紹介
菊池寛[キクチカン]
1888‐1948。高松市生れ。1916(大正5)年、京大を卒業後、「時事新報」記者を勤めるかたわら、「恩讐の彼方に」等の短編小説を発表して、新進作家としての地位を確立した。さらに面白さと平易さを重視した新聞小説『真珠夫人』で、一躍、流行作家になった。その一方、鋭いジャーナリスト感覚から’23年、「文藝春秋」を創刊、文芸家協会会長等を務め、“文壇の大御所”と呼ばれた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ykmmr (^_^)
128
作者の、『創作』を兼ねた歴史短編集。平安時代末期の有名悲劇象徴の『俊寛』。表題作で、現代スキャンダルにも通じそうな『藤十郎の恋』。『信仰』とは?の『極楽』。こちらは『俊寛』と同時代⁇『贖罪』がテーマで、一見『極楽』がそうかと思えば、こちらが菊池版『蜘蛛の糸』と思える『恩讐の彼方に』。人間のグレーな部分や憐れみをさらっと書いた作者。親友(芥川)にも通じるような作品ばかりだ。(☜あくまでも、私見…。)2023/03/07
ヴェネツィア
111
「恩讐の彼方に」が、ゲスト参加した読書会の課題図書だった。ずっと以前に読んだことはあるが、こんな機会でもないと菊池寛を読むことはなさそうだ。いわゆる「青の洞門」を穿つ物語だが、上田秋成の『春雨物語』中の「捨石丸」にほぼ同じ話が収録されている。また改心した高僧の物語としても同じ『春雨物語』の「樊 噲」がそうだ。おそらくは、そのあたりに出典が求められるだろう。また菊池寛の小説にはいずれもその傾向があるが、わかりやすく語るために説明がやや過剰になり、想像力の余韻に乏しくなってしまうという欠点を併せもってしまう。2013/07/15
nyaoko
89
初読み菊池寛。名前は知っていても今まで読んだ事無かった作家。それもこれも、PSYCHOPATH劇場版の副題が「恩讐の彼方に」そして、是非読んで欲しいと関さんのインタビューから速攻で買って読みました。めちゃくちゃ深いです。この作品、1919年大正の時代に書かれているのですが、そんなに難しい文章でなかった。「藤十郎の恋」も良いですが、解説が吉川英治氏なのも尚良かったです。2020/01/02
nakanaka
80
歴史短編小説10篇。傑作揃いで菊池寛の作家としての凄さが分かる。それ程メジャーではない人物にスポットを当てた作品が多いが上手く短編として成立させていることに力量を感じる。福井藩主・松平忠直の心情を細かく描写した「忠直卿行状記」や杉田玄白と前野良沢の解体新書が出来るまでを描いた「蘭学事始」、平安時代の僧・俊寬の島流しを描いた「俊寬」など良作揃い。特に感銘を受けたのは、若い時分の罪に悩み出家した男が罪ほろぼしのため行う隧道工事を描いた「恩讐の彼方に」。人間の執念や成し遂げることの尊さが胸に染みる。2020/10/09
あつひめ
74
ラジオで聴いて読んでみたくなった。活字を追っていると、藤十郎の堅物さと言おうか、色恋になびかない…という印象が文字と言う形で現れたのだが、ラジオを通して、耳から入ってくる藤十郎の印象が固さの中に芸に対する苦しさのような、ため息が込められているように感じられた。これは、行間の溜めの印象かどうかわからないが。お梶が行灯の灯りを吹き消すときの胸の高鳴りが読者にまで伝染するような…そんなドキドキ感を共有した気がする。2014/10/24