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本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
215
切支丹物と称される11の短篇を収録。篇中、この分野としてもっとも成功しているのは、やはり表題作「奉教人の死」だろう。文体、語りの工夫もさることながら、全編にただよう格調と余韻はこの時期の芥川を如実に示している。切支丹文学として、濃密なエキゾティズムと浪漫性とを漂わせるが、それはまさに白秋の『邪宗門』で歌われた「われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法」に通低するものである。編年体で編集されているために、後半では筆致の変化も見られる。「報恩記」などは芥川が、もはや切支丹物から離陸しつつあることが顕著だ。2014/07/26
ゴンゾウ@新潮部
118
芥川のキリスト教をテーマにした短編集。一部古文や漢文形式の作品もあり残念ながら理解できないものもあったが、総じて良い作品が多かった。独自の宗教観、価値観のある島国日本。 そこに進出するキリスト教の教えとその合理性と矛盾を芥川独自の解釈でシビアにユーモラスに皮肉を交えて書いている。傑作と言われる表題作以外にも面白い作品が多い。巻末の注解と格闘しながらも読んでおきたい作品集。2015/08/24
新地学@児童書病発動中
113
キリスト教をテーマにした芥川龍之介の短編集。芥川の場合、文体や物語の構成に力を入れ過ぎて、作者の感情が直接伝わってこないことがあるが、ここに収録されている物語にはそういった不満を感じなかった。集中の白眉はやはり「奉教人の死」だと思う。異国趣味に溢れた文体で、気高く生きた少年の短い一生を描き出している。「報恩記」も好みの短編で、プロットの捻り方が巧い。「おぎん」も素晴らしい短編で、人間の真情と宗教の教条主義的な面の相克を、鮮やかに表現している。この短編集を読んで、改めて芥川龍之介の素晴らしさを実感した。2015/08/09
ヴェルナーの日記
73
キリシタンものを扱った作品集。芥川作品の中で、およそ初期から中期に執筆された作品が多い。この頃の芥川は、文体に試験的な試みが旺盛な時期で、作品ごとの筆致がかなり違う。ゆえに読者の好みによって当たりはずれが大きい。自分個人としては、『地獄変』や『羅生門』のような提喩を鮮やかに使用した作品が好みなので、本作のような硬質な筆致な作品は、いまひとつ冴えのない作品に思えてしまう。2015/06/30
とも
66
昔読んで、「難しいなぁ」と敬遠していた芥川龍之介。おっさんになってから読んでもやっぱり難しかった(笑)でも、年の功で読解力だけはどうやら高まっていた様で「煙草と悪魔」「奉教人の死」「きりしとほろ上人伝」「報恩記」等々、感慨深く読めた。没後92年経った今でも恭しく「芥川賞」なるものがあるのも納得です。2019/06/11