内容説明
豪雨が続いて百年に一度の洪水がもたらしたものは、圧倒的な“泥”だった。南インド、チェンナイで若いIT技術者達に日本語を教える「私」は、川の向こうの会社を目指し、見物人をかきわけ、橋を渡り始める。百年の泥はありとあらゆるものを呑み込んでいた。ウイスキーボトル、人魚のミイラ、大阪万博記念コイン、そして哀しみさえも…。新潮新人賞、芥川賞の二冠に輝いた話題沸騰の問題作。
著者等紹介
石井遊佳[イシイユウカ]
1963(昭和38)年、大阪府枚方市生れ。東京大学大学院博士後期課程(インド哲学仏教学)満期退学。ネパール、インドで日本語教師を務める傍ら小説を執筆。2017(平成29)年、「百年泥」で新潮新人賞、翌18年、同作で芥川賞受賞。現在は日本で執筆に専念(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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absinthe
136
面白い。南インドのチェンナイ。百年に一度の豪雨で泥まみれになった地域。ここである橋を渡るのだが。泥からの出土品から連想があちらこちらへ跳んで、彼女の置かれた状況が見えてくる。エピソードそれぞれが生き生きして楽しい。羽根を持って空を飛ぶ通勤者?などトンデモなアイデアを織り交ぜつつ、インドの土地柄を溺愛するでも批判するでもなく淡々と語る。体験談と空想が織り交ざっているのだが、話題がキュビズム芸術のように絡み合う。2024/07/20
ぶち
111
作者の石井さんはインドに暮らし、百年に一度という規模の大洪水に実際に遭遇したそうです。その時の体験が土台となっているとのことです。どこまでが事実で、どこがフィクションなのか、渾然としてつかみきれないこの小説は、インドという舞台ならではのものだと思います。そして、この小説の底に流れる"永劫"という感覚は、東大インド哲学科仏教学専攻という石井さんの研究歴を知ると、フムフムなるほどねぇ、などと思ってしまうのです(上から目線ですみません)。 いずれにしましても、芥川賞受賞というのもうなずけるファンタジー中編です。2021/08/23
アキ
94
2017年新潮新人賞、2018年芥川賞受賞。インドのチェンナイで洪水がおこりアダイヤール川が氾濫し、橋を渡ってすぐ会社に着くのに、見物客で大賑わい。百年泥から何年も行方不明だった息子がひょこり見つかったり、飛翔によって通勤する重役たちとかインドならなんでもありそうに思えてしまう。大阪万博のコインも掘り出したら誰かの記憶を呼び起こすが、また記憶の泥の中へ戻っていく。あったかもしれない人生、実際は生きられることがなかった人生、それが百年泥の界隈なのだ。最後に橋の段差を飛び降りる。左は会社。と橋を渡る間の空想。2021/09/07
クプクプ
69
インドのチェンナイを流れる川が百年ぶりに氾濫する。そのチェンナイで現地の大学を卒業したレベルの生徒を相手に日本人の女性の先生が日本語学校の先生をする。その生徒のひとりに学歴では他生徒に劣るが要領のいい男子生徒がいて先生にちょっかいを出してくる。生徒の覚えたての日本語が面白く、また1970年の大阪万博がからんでくる。私は大阪万博のときまだ生まれていなかったので大人の小説だという印象。まるで北杜夫の「どくとるマンボウ航海記」を初めて読んだような衝撃。梨木香歩の「西の魔女が死んだ」のようなベストセラーになる予感2020/08/08
サンタマリア
56
話の筋を掴むのにだいぶかかってしまった。うそばなしのようであり、川上弘美さんに近い印象を受けた。百年に一度の大洪水がもたらした百年泥から確かに起こった過去や綴られるはずだった未来があらわれる。最後、その泥を川に返すシーンが印象的だった。2021/02/15