内容説明
小林秀雄の慧眼は批評を、分析でも悪口でもなく、愛情と感動だと喝破した。芸術に対峙し、心打たれることに意義を見出す。この近代批評の確立者も当初、生計を支える稼ぎ手として書く。東大新聞の下品な問いにも不機嫌さを隠さず応じた。一方で美に昏い世を警醒し続ける。人間的な素顔の窺える文庫初収録随想と入手困難だった批評を併せて収録。22歳から30歳まで、瑞々しい52編の文芸論集。
目次
断片十二
佐藤春夫のヂレンマ
性格の奇蹟
測鉛1
測鉛2
芥川龍之介の美神と宿命
「悪の華」一面
アシルと亀の子1
ナンセンス文学〔ほか〕
著者等紹介
小林秀雄[コバヤシヒデオ]
1902‐1983。東京生れ。東京帝大仏文科卒。1929(昭和4)年、「様々なる意匠」が「改造」誌の懸賞評論二席入選。’67年、文化勲章受章。連載11年に及ぶ晩年の大作『本居宣長』(’77年刊)で日本文学大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
双海(ふたみ)
17
小林の22歳から30歳までの52の論考を採録。曰く、批評とは愛情と感動である。巻末には112ページもの膨大な注解。文庫本ながら注の数は438にのぼる。新潮社のいい仕事。応援したくなる。2020/08/12
梅崎 幸吉
10
彼の「批評家失格」は深い苦悩を裡に秘めつつ孤軍奮闘している時期に書いたものだ。 「今や私は自分の性格を空の四方にばら撒いた、これから取り集めるのに骨が折れる事だろう。」このボードレールの言葉を小林秀雄は「✕への手紙」に引用し、さらに自らを「――俺は今この骨の折れる仕事に取りかかっている。もう十分に自分は壊れてしまっているからだ」と告白する。 果してその受け継いだ「事業」をどこまで成し得るか? ここで小林秀雄の自己自身の内的戦いの末の表明が、覚悟があの「批評家失格」という文章を書かせた。 2023/12/03
Iwata Kentaro
7
小林秀雄の良さは、その主張の中身というよりも、文体のリズムを音楽的に楽しむことだと思う。個人的には。2023/01/07
yutaro sata
7
一番若いときの仕事。苦しい、苦しいな。
たんかともま
2
小林秀雄は好きだが苦手なところもある批評家で、今回その両方の特性がよく出ていた。好きな部分は褒めるところ。解説であった作品を介して作者に会いに行き対話する、というスタイルがよい。そして批評も自分の作品という、ある種の創作物として楽しめるものを書いている点も好み。時代的という批評言葉を便利と両断しているのも痛快で、逆に自分が語れないことには口を閉ざすのもよい。批評に対する批評家のようだった。一方で不良学生らしいどこか生意気な文体と、飛躍しすぎて結果がわかりにくいものがあり、そこは苦手。結の部分が難しいのだ。2020/12/19