出版社内容情報
疎開先の津軽の生家で書き綴られた、新しい自由な時代を迎えた心の躍動が脈うつ珠玉編『津軽通信』。原稿用紙十枚前後の枠のなかで、創作技巧の限りをつくそうと試みた中期の作品群『短篇集』。戦時下の諷刺小説『黄村先生言行録』シリーズ。各時期の連作作品を中心に据えて、それに戦後期の『未帰還の友に』『チャンス』『女神』『犯人』『酒の追憶』を加えて編集した、異色の一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
148
太宰最後の短編集です。精神的安定期から死期の近づいている頃までの作品がおさめられていますが、豊かな感性で描かれており、ユーモアすら感じます。太宰が短編の名手であると改めて思いました。どの作品も外れなし。太宰の作品としてはやや異色ですが、そこが面白いところだと思います。2016/05/05
ゴンゾウ@新潮部
124
暗い戦争から解放され自由に表現できる悦びに満ちた作品が多い。短編作品の復興を思い自ら手法の限りを尽くした豊富な作品群。自己否定的な暗さを感じさせるものはなくユーモアや優しさ、希望に満ちた作品達。まさしく短編の名手の本領発揮。この頃の太宰作品がとても好きだ。2015/12/19
nakanaka
91
エッセイと短編小説が入り混じったような作品でした。「黄村先生言行録」で笑い、「未帰還の友に」では目頭が熱くなり、「犯人」ではいつもと違った作風を感じられました。太宰治の天才っぷりを感じさせてくれる作品のオンパレードでした。特に黄村先生シリーズの「花吹雪」が面白かったです。私はただ面白がっていただけでしたが、解説を見ると当時の社会への風刺が効いた内容であったということに驚くと共に改めてその凄さに気づかされます。太宰治の生き方に共感することはできませんがどうも惹きつけられてしまう自分がいます。不思議だ。2018/08/24
おいしゃん
86
太宰って、こんなに面白いのか!と思えた作品。又吉さんが著書で太宰の面白さを語っており触発されたのだが、この本でも短編ごとにオチがあり、ギャグセンスに溢れ、漫才を見ているようだった。2016/07/12
Willie the Wildcat
72
シニカルな『失敗園』は、どうにも自虐ネタという感で微笑ましい。お気に入りは、”矢車草”。『リイズ』も同様の主旨だが、洒落に温かみ。母強し!黄村先生シリーズは、『不審庵』の”薄茶飛沫”など、確かに微笑ましい。だが、印象深いのは、『花吹雪』の「両眼より星」の件。古典的な漫画表現に、太宰氏の異なる一面を垣間見た気がした。いいなぁ。一方、『酒の追憶』と『未帰還の友へ』は、”苦い”酒が共通項。世相の変化の描写を直接・間接的に対照描写した観。特に前者は、過ぎたるは・・・、ですね。2018/10/19