出版社内容情報
妻の裏切りを知らされ、共産主義運動から脱落し、心中から生き残った著者が、自殺を前提に遺書のつもりで書き綴った処女作品集。“撰ばれてあることの 慌惚と不安 と二つわれにあり”というヴェルレーヌのエピグラフで始まる『葉』以下、自己の幼・少年時代を感受性豊かに描いた処女作『思い出』、心中事件前後の内面を前衛的手法で告白した『道化の華』など15編より成る。
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TERU’S本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
339
太宰の第一作品集。第一回芥川賞の候補になり、本人も師の井伏鱒二もすっかり取れるものと思っていた。ところが、最終的に受賞作となったのは、石川達三の『蒼氓』だった。現在の審判はもう言うまでもないだろう。さて、『晩年』だが、ここでは未だ弱冠25歳の太宰がすっかりその後の人生を達観しているかのようだ。解説の奥野健男が言うように、ここには太宰文学の萌芽がすべてある。篇中の「道化の華」で太宰は「僕の小説が古典になれば」と語っているが、まさにそうなったのである。2013/09/04
kaizen@名古屋de朝活読書会
204
新潮百冊】表紙の色が写真よりやや暗い。雑誌などに掲載した短編15話。晩年という標題の作はない。「お前はきりょうがわるいから、愛嬌だけでもよくなさい。お前はからだが弱いから、心だけでもよくなさい。お前は嘘がうまいから、行ないだけでもよくなさい」。解説、奥野健男。「助詞を省略した意識的に乱れた文体、ストーリーを中断する構成など、前衛的な手法」。2013/06/22
優希
162
自殺を前提にして描れた短編なだけあり、死の意識の匂いがたちこめていました。自らが滅びることが世のためであるという精神があるせいか、生涯の情熱を込めており、文学への反逆を試みたように思えます。自己主張と感情の起伏が感じられるせいか、暗さすらユーモアに変えてしまう、まさに道化ともとれるでしょう。ただ、矢張り厭世感が漂い、読み手の昏さへと踏み込んでくるような雰囲気は全編の根底に流れているように感じました。2016/01/23
青蓮
134
何度目かの再読。本作は遺書のつもりで書かれた作品集。しかし不思議とそこに暗さはない。「死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。」この一文がお気に入り。名作は何度読んでも面白い。解説にあるように、両手の垢で黒く光って来るまで、繰り返し繰り返し愛読していきたい1冊。2018/01/04
ゴンゾウ@新潮部
131
自殺を前提に書かれた処女作品集。とてもバラエテイに富んだ作品が多かったけど、難解な作品が多くて何度も読み返さなければ理解できなかった。作品としてはまだ完成度は高くないかなぁ。「猿が島」は面白いですね。 またしばらくして読んでみたい。2014/07/10