内容説明
京都の呉服問屋の娘である千重子は、幼馴染の大学生、真一と平安神宮へ花見に出かける。夕暮れ時、彼女はある秘密を明かすが、真一は本気にしなかった。やがて夏の祇園祭の夜、千重子は自分とそっくりな娘と出会う。あなたは、いったい誰?運命の歯車が回り始めた…。京都の伝統ある行事や街並み、移ろう季節を背景に、日本人の魂の底に潜む原風景を流麗に描く。ノーベル文学賞対象作品。
著者等紹介
川端康成[カワバタヤスナリ]
1899(明治32)年、大阪生れ。東京帝国大学国文学科卒業。一高時代の1918(大正7)年の秋に初めて伊豆へ旅行。以降約10年間にわたり、毎年伊豆湯ケ島に長期滞在する。菊池寛の了解を得て’21年、第六次「新思潮」を発刊。新感覚派作家として独自の文学を貫いた。’68(昭和43)年ノーベル文学賞受賞。’72年4月16日、逗子の仕事部屋で自死(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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夜長月🌙新潮部
83
存分に京都を感じられる作品です。京都好きの方にはたまらないでしょう。京都の情景と京都弁が彼の地へいざないます。以前、東山魁夷展に行った時に一連の京都を描いた作品の解説に「川端康成さんに京都は今描いていただかないとなくなります。京都のあるうちに描いておいて下さい。」と言われたとありました。芸術としての文学と絵画がこうして交流するのはすばらしいことです。(単行本の口絵は東山魁夷さんによるものです)2023/05/15
Lara
76
生別れた双子の姉妹が、祇園祭でめぐり逢った。互いに気遣う有り様が、なんとも切ない。昭和37年の作品ということで、当時の京都の職人さんの生活、風情が、京言葉と共に、端正な文章で綴られている。とても素敵な作品です。2024/09/10
Lara
68
再読。素晴らしい作品。情緒あふれる京都の町、美しい双子の姉妹、それが20年を経て再会する。当時の京都はさぞ美しかったことでしょう。選ばれたような言葉、短めの文章、全て美しい。何度でも浸りたい、川端康成文学の名著。2025/04/13
NAO
56
主人公の千重子は、京呉服問屋の一人娘で箱入り娘として大事に育てられたお嬢さんのように見えるが、実は捨て子で本人も自分が両親の実の子でないと知っており、そういった彼女の不安定な境遇が身近な自然になぞらえて細やかに描かれ、彼女の不安や孤独が浮かび上がってくる。そして、古風なお嬢様という雰囲気の千重子だけでなく、妹苗子の凛とした姿も京女にふさわしい美しさだ。花見、鞍馬の竹伐り会式、祇園祭、時代祭り。眼も鮮やかな季節の流れ、祭りの色どり。 その中をしとやかに流れていく姉妹は王朝絵巻の主人公のようだ。 2024/07/28
AICHAN
42
図書館本。私は京都が好きではない。洛中(平安京そのもの、あるいはその京域内を指す)に住む京都人は、伏見などの洛外に住む人たちを京都人だと認めないと聞いたからでもあり、京都人が遠回しの言い方で本音をあまり出さないことも気に入らないからだ。この川端作品を読んだのは名作だと聞いたからであり、京都に興味があったからではない。しかし、拾われっ子の主人公が自分によく似た娘を見て…。古都の美しさを見事に描き出している叙述に、京都をちょっと見直した。死ぬまでに一度は京都に行ってみてもいいかなと思うようになった。2025/03/12