感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぐうぐう
17
歴史は、安易に行いに、あるいは人にレッテルを貼る。エリア・カザンのHUACへの密告は、己の保身のために仲間を売ったとして、ハリウッドでは長らく恥ずべき出来事として語られてきた。しかし、カザンが共産党員時代、その共産党の言論統制、党員の党への盲従といった状況に嫌気がさし、党ともめて、たった一年半で離党している。そんなカザンが、今度はHUACから赤狩りに追われる。右派からも左派からも標的にされるカザンは、それだけ個として生き方を曲げなかったことを証明しているのだ。(つづく)2019/06/01
ムーミン2号
8
この巻では映画監督のエリア・カザンのストーリーが中心であるが、白眉は共産党によるカザンの糾弾場面だ。資本主義の限界を感じて入党した多くの芸術家に求められるのは党の方針からブレない作品でしかなく、真の自由のない全体主義体制であって、一周回って赤狩りを進める連中と大差ないことに戦慄を覚える。このマンガの初期に登場した『ローマの休日』にしても、そして今、カザンが撮っている『波止場』にしても、時代への強烈な批判を内に秘めたものであることを知らされる。なお、全てが事実として描かれていないことは巻末で解説されている。2019/06/01
Iwata Kentaro
5
エリア・カザンとマリリン・モンローが登場する極めて重厚な第五巻。ほんまもののホラーは史実にある。左翼も右翼も自由の敵、という一冊。2019/06/12
笠
4
4 新刊読了。『欲望という名の電車』などで映画監督として成功していたエリア・カザンに焦点を当て、引き続き赤狩りの苛烈さを描く。ポルノ雑誌を送りつける、時限爆弾のフェイクを送りつける、極めつけには子供を誘拐するなど、手段を選ばず徹底的に心を折ろうとするFBIのやり方は、どこまでが事実でどこまでが脚色なのか判然としないが(次巻の巻末の補足で明らかになるだろうか)、とにかくえげつないの一言。電気椅子での処刑を克明に描く描写もショッキングだが、少しでも電流を多く流すために照明を消すという発想は心底恐ろしい。2019/06/09
古本虫がさまよう
3
マリリン・モンローとフフフの関係を続けるエリアさん…。FBIも監視ずみ。それはともかくとして、党員として党集会に出てみても、そこには上からの指示をそのままオウムのごとく喋り、自己批判を強要する手合いばかり。それにウンザリするエリア。離党届を出す。そんな思想遍歴故に、非米活動委員会に出て「誠実」(八方美人?)に対応しようとする。 ともあれ、そんな風に共産主義と訣別するエリア。共産主義に忠誠を誓い死刑台に向かうローゼンバーグ……。どちらが正しかったか? さまざまな葛藤が描かれた作品。2019/12/08