内容説明
稲穂が金色に輝き、風に揺れてシャラシャラと唄を奏でる山陰の秋。娘の奈緒子、孫の嫁・美代子、曾孫・東真、近所の花屋の店員・史明の四人に送られ、九十二歳の松恵は息を引き取ろうとしていた。松恵は、先だった夫が今際の際に発した言葉を思い出す。奈緒子は、だれの子だ…。「百年近くを生きれば、全て枯れ、悟り、遺す思いもなくなり、身軽に旅立てるとばかり信じておりましたが、どうしてどうして、人間って簡単に軽くはならないようです」多くの人の心を受けとめ救った大おばあちゃんが、美しい風景に送られ、今日旅立ちます。
著者等紹介
あさのあつこ[アサノアツコ]
1954年岡山県生まれ。青山学院大学文学部卒。91年『ほたる館物語』で、デビュー。97年『バッテリー』で第三十五回野間児童文芸賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さおり
73
あさのあつこさん、アンソロジー以外では初めてでした。よかった。それぞれにそれぞれの人生があり、それぞれの物語があるということが、丁寧に優しく書かれていました。うちの祖母も少し前に90年の生涯を閉じましたが、日々、ふとした時に祖母を思います。2015/03/23
うりぼう
70
今年の1月20日未明、82歳で母が逝った。時々、母の声を聞いたような気がするときがある。きっと、私のそばで見守ってくれているのだろう。最も愛した人に最も言って欲しくないことを、最も辛い場面で聞かされた人は、それをどう処理するのだろう。葛藤を乗り越えた先に静謐な枯淡の境地があり、泥棒さえも温かく迎える。そんなことは、瑣末なことと破顔する器を持つ。その曾孫は、愛することに怯え、誰かと比較することで自分を見失い、愛しい人の死と引き換えに自分を取り戻す。愛されない過去を持つ娘は、愛すべき夫の許を去り、孤高に生きる2011/03/10
おかむー
58
興味はありつつきっかけがなかったあさのあつこ、初読をこの作品にしたのはよかったようです。『たいへんよくできました』。92歳で息をひきとる間際の松恵、その決して穏やかなだけではない人生とこころの内を序章に、彼女にまつわる4人の物語が描かれ、松恵の葬儀を終章にしめくくる。女性らしい柔らかく細やかな色彩に彩られた情景描写が、それぞれの場面をときに淡くほの光らせ、ときに燃えるように輝かせてとても印象的ですね。その情景に比して登場人物の心のうちは昏いわだかまりに苛まれるが、それぞれが前向きになるきっかけもステキです2015/01/13
エンリケ
41
旧家の老婦人が今際の際に回想する人生。そこから始まる連作短編。一見平凡な人生を歩んで来た家族の面々。でもその内面には暗い感情が渦巻いている。読んでいて辛い部分があったが、これこそが人間。嫉妬、不満、疑念。ネガティブな情念とどう折り合いをつけていけるか。皆が足掻きながら生きていく。仲のいい家族も一皮剥けば、等と考えると恐ろしく、又悲しくなってしまう。お気楽で能天気な僕も知らず周囲の人々を傷付けているのかも知れない。でもここに登場した人々は、少しくそれを克服していく。おかげでどのお話も最後はほっと息がつけた。2017/07/05
ぶんこ
41
澄み渡った高い空と金色に輝く稲穂。 秋の情景が目の前に浮かぶようでした。 92歳での大往生。 こんな風に最期を迎えたいものだと羨ましく思いました。 94歳で施設に居る実母を、切ない気持ちで比べてしまいました。 2015/01/24
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