内容説明
日本橋の繊維問屋の家に生まれた永森進一と正二の兄弟。関東大震災、昭和恐慌、満州国建国などを背景に、激動する社会状況を、対照的な兄弟の姿を通じて描く。成績優秀な進一は、学生時代から社会主義に傾倒し、卒業後は組合活動に没頭。しかし、左翼活動家の取り締まりを強めていた特高警察に捕まってしまい、連日激しい拷問を受ける。やがて起訴保留となり釈放されるが、進一はそのときすでに肺を患っていた。一方、兄とは違って明るく社交的な正二は、学校を出ると家族らに盛大に見送られて入営。ところが、この連隊では体罰こそなかったものの、「昭和維新」(天皇親政の国家を目指す運動)を標榜する右派の巣窟となっており、正二はやがて日本中を揺るがす大事件に否応なく巻き込まれていく―。あたかも激流のように社会が激しく変動するなか、ふたりはどこに行きつくのか…。治安維持法違反の疑いで検挙された経験を持つ著者の体験から描かれた魂の長編の前編。
著者等紹介
高見順[タカミジュン]
1907(明治40)年2月18日‐1965(昭和40)年8月17日、享年58。福井県出身。1935年に『故旧忘れ得べき』で第1回芥川賞候補となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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