内容説明
物置小屋で生まれた、「小津もの」含む名私小説9篇。小田原の魚商の長男として生まれた著者・川崎長太郎は、家督を弟に譲り、文学の世界へ。たびたび東京暮らしを経験するが、30歳になる頃、小田原の海岸にある実家の物置小屋に住み着き、物書きのかたわら私娼窟通いを続ける―。そんな著者の尋常ならざる日常を切り取った、味わい深い私小説集。「淡雪」「月夜」「浮雲」はうだつの上がらない物書きとのつかず離れずの関係を、若い小田原芸者の視点で描いた佳作。映画監督・小津安二郎(ここでは「大津」として登場)と、「小川」として登場する著者、そして小田原芸者との三角関係を描いた、いわゆる「小津もの」のひとつ。そのほか、実家で働いていた奉公人を描いた「ある生涯」、著者を批判し続けるが薬物におかされてしまった友人を描く「ある男」など、全9篇を収録。
著者等紹介
川崎長太郎[カワサキチョウタロウ]
1901年(明治34年)11月26日―1985年(昭和60年)11月6日、享年83。神奈川県出身。私小説一筋の生涯を貫く。1977年、第25回菊池寛賞を受賞。1981年、第31回芸術選奨文部大臣賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヨノスケ
11
短編形式の私小説で、舞台が小田原ということもあり、興味本位で読み始めた。一つ一つの話は同じ内容であるが、語り手が異なる為か?退屈せずに読み終えた。静かに始まり、何事もなかった様に静かに終わる。でも感慨深い。「こんな小説もあって良いんだなー」そう思った。2021/11/07
Asakura Arata
2
淡々とした筆致で、何気ない日常が語られる。見せ場と言うものがまったくないのに、読ませてしまうのは凄い。
ライム
1
安原稿で年に2,3篇の短編を出すだけのしがない文筆業者だと自ら一人くすぶり、世間並な世帯なんか持てないと悲観する30男、でもちっとも暗くない。住処こそ貧乏小屋でも、一膳飯屋で腹を満たしてフラフラと私娼窟におもむき芸者たちに先生と呼ばれて…ててなし子を持つ枕芸者との、呑気でてらいのない会話。それが一転、緊張感をはらみ出す経緯が面白い。映画監督大津から渡された雑誌に、自分をモデルに書いたとおぼしき彼の文章を見つけ「もうお座敷には金輪際出ない事にしたの」と怒る彼女に、いじましく謝る男の姿。2024/07/20