内容説明
昭和20年、すでに夫を喪い、家も戦火に焼かれてしまった母子が、遠縁を頼って東北の寒村に身を寄せる。だが、そこは安住の地ではなかった。頼るべき知己もおらず、終戦後は都会に戻るという希望も断ち切られ、迫りくる厳しい冬を前に、母は自ら死を選ぶ…。ノンフィクション作品のような感情を抑えた筆致が、かえって読む人の想像を掻き立てる。第54回芥川賞に輝いた表題作のほか、やはり身近な人の死をテーマにした「夏の日の影」「霧の湧く谷」、大学の二部に通う学生たちの葛藤を描いた「浅い眠りの夜」の三篇を収録。
著者等紹介
高井有一[タカイユウイチ]
1932年(昭和7年)4月27日‐2016年(平成28年)10月26日、享年84。東京都出身。本名・田口哲郎。1965年『北の河』で第54回芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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大粒まろん
22
情景描写が立体的。独特の言葉遣いと重苦しい筆致は、敗戦後の疎開先での不安と我慢を強いる物語の雰囲気と合っていた。昭和20年、夫を喪い。家も戦火に焼かれてしまった母子、夫方の縁者を頼って東北の寒村に身を寄せる。元の場所に帰りたい母は自分の父に手紙を出すが。。少し書き足りない感もありますが、東北の寒さに怯え、母親がどんどん希望を失っていく様を、子供の視点で淡々と語る事で、その効果をあげていた。直ぐ傍に居ても立場や役割が変わると見えてる世界は同じでなくなり、環境や状況を許容出来る者と拒絶する者の差は果てしない。2023/09/07
hirayama46
3
はじめての高井有一。芥川賞受賞作を含む4編を収録していますが、全体的にかなりトーンが重く、寒村の生活のしんどさが直接的に伝わってくるような作品群でした。なにしろ3/4が肉親の死について精細に描いた作品なので、なかなか息苦しいものはありました。2022/07/27
くりこ
0
純粋な文芸作品。 今と昔を比べる気はないけど、今の時代にこんな純粋な気持ちを持てる人はいるのだろうか。そして、こうして小説として書き上げることのできる作家がいるのだろうかと思う。 人の心が複雑になってしまった現代を憂うばかり。2025/07/23
西葛
0
全編良かったし、全編タイトルが思い出せない。二部の学生を描いたのから察するに、なるだけ経験を小説として紡ぐことがこの作家の求めるところなのでしょう。風景描写は随分と巧みだが、逆にセリフは本当にドラマのように印象的なものも多く、こと父の死に接した主人公少年にかけた従祖母の「若いのに立派、という言葉に気をつろ云々」は際立つ。特に響いてもなさそうなのがなお良い。2023/05/21