内容説明
性悪な英語教師をブン殴って県下有数の名門進学校・I高を中退した17歳の斎木鮮は、中学時代の恋人だった幹とアパートで一緒に暮らし始める。幹もまた父親の分からない子を産んだばかりで女子高を退学していた。さまざまな世間の不条理に翻弄されながらも肉体労働での達成感や人間関係の充足を得て徐々に人として成長していく鮮―。幼少期に性的悪戯を受けた暗い過去や、母親との不和による傷に苦しみながらも鮮は一歩ずつ前へと歩みを進めるのだった。第4回三島由紀夫賞受賞作品で解説を文芸評論家の池上冬樹氏が特別寄稿。
著者等紹介
佐伯一麦[サエキカズミ]
1959年(昭和34年)生まれ。宮城県出身。1990年『ショート・サーキット』で第12回野間文芸新人賞、2004年『鉄塔家族』で第31回大佛次郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
43
私小説らしい。舞台も広瀬川とあるように、作者の出身地と同じ宮城で、佐伯→斎木となっている。進学校に行くことになった斎木は勉強への意欲がわかず、教師とトラブルを起こしたことで高校を退学する。同じころ、中学のときに交際していたが疎遠になっていた同級生・幹が、自分ではない父親の子供を出産する。なぜか彼女と同棲して自活するという奇妙な選択をする斎木の背景が、電気工の仕事の細部を伴って身体化されつつ読者にも明らかになる。彼女と上手くいかないのは、幼児期の性的虐待と実母との折り合いの悪さがその原因にある。本作はいわば2025/07/09
ユカ
5
労働って素晴らしい。トラウマを抱えていて、進学校を中退した、母親の愛情の薄い、主人公の人生を救っている。読後感かなり良し。さらりとした進行と労働の尊さに助けられた。2020/09/19
オールド・ボリシェビク
3
傲慢な教師を殴り、県内有数の進学高校を退学した主人公は、中学時代のガールフレンドとアパートで暮らし始める。彼女こ宇高を中退し、父親のわからない娘を産んだばかり。激しい肉体労働などを経験しながら、成長していく主人公を描いていく私小説。電設工事などの細かな描写には困惑するが、明るいタッチが通底しており、「挫折」の暗さを感じさせない。1991年、第4回三島由紀夫賞受賞作である。芦原すなおの「青春デンデケデケデケ」と争ったというのが面白い。2023/05/08
ペンギン
3
暗い過去や過酷な現状から高校をドロップアウトした主人公が荒波にもまれながらも労働を通じて自己を肯定するまでに至る物語。テーマ的には暗夜行路のように過去の小説にありがちに思えるが、爽やかな読後感を得られるのは文章の筆致のせいだろうか。若い2人を取り囲む周りの大人は利己的で欺瞞に溢れた人たちばかりだが、労働者の沢田さんという存在が救いとなっている。若い人にこそ読んでほしい1冊。2022/01/26
ロックとSF、たまに文学
1
オールタイムベストの青春小説の1つ。2025/07/04