内容説明
性悪な英語教師をブン殴って県下有数の名門進学校・I高を中退した17歳の斎木鮮は、中学時代の恋人だった幹とアパートで一緒に暮らし始める。幹もまた父親の分からない子を産んだばかりで女子高を退学していた。さまざまな世間の不条理に翻弄されながらも肉体労働での達成感や人間関係の充足を得て徐々に人として成長していく鮮―。幼少期に性的悪戯を受けた暗い過去や、母親との不和による傷に苦しみながらも鮮は一歩ずつ前へと歩みを進めるのだった。第4回三島由紀夫賞受賞作品で解説を文芸評論家の池上冬樹氏が特別寄稿。
著者等紹介
佐伯一麦[サエキカズミ]
1959年(昭和34年)生まれ。宮城県出身。1990年『ショート・サーキット』で第12回野間文芸新人賞、2004年『鉄塔家族』で第31回大佛次郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ユカ
5
労働って素晴らしい。トラウマを抱えていて、進学校を中退した、母親の愛情の薄い、主人公の人生を救っている。読後感かなり良し。さらりとした進行と労働の尊さに助けられた。2020/09/19
オールド・ボリシェビク
3
傲慢な教師を殴り、県内有数の進学高校を退学した主人公は、中学時代のガールフレンドとアパートで暮らし始める。彼女こ宇高を中退し、父親のわからない娘を産んだばかり。激しい肉体労働などを経験しながら、成長していく主人公を描いていく私小説。電設工事などの細かな描写には困惑するが、明るいタッチが通底しており、「挫折」の暗さを感じさせない。1991年、第4回三島由紀夫賞受賞作である。芦原すなおの「青春デンデケデケデケ」と争ったというのが面白い。2023/05/08
ペンギン
3
暗い過去や過酷な現状から高校をドロップアウトした主人公が荒波にもまれながらも労働を通じて自己を肯定するまでに至る物語。テーマ的には暗夜行路のように過去の小説にありがちに思えるが、爽やかな読後感を得られるのは文章の筆致のせいだろうか。若い2人を取り囲む周りの大人は利己的で欺瞞に溢れた人たちばかりだが、労働者の沢田さんという存在が救いとなっている。若い人にこそ読んでほしい1冊。2022/01/26
きつねのこんた
1
この小説を題材にしたNHKの番組が、2000年頃に放送されてました。子供心に結構衝撃を受けて、いつか再放送を見たり、原作の小説を読みたいと思っていました。 結局再放送の機会はなく、小説も絶版になっていて困っていましたが、たまたま調べたらちょっと前に新版が刷られてたんですね。 誰かの解説では幹には芯がどうこうとあったけど、私は真逆の感想かな。幹は周りをブンブン振り回す系の女性で、結局あきらは引き込まれてしまったんだろうな。大山もそうだけど。1990年代の香りが漂う懐かしい小説でした。2024/12/15
Ryu
0
普段より疲れた月曜の夜に一気に読んだ。とにかくこの小説が描く二人とその周りの人々に夢中になってしまった。ここに流れる時間に囚われてしまった。人生を生きるということがくっきりと書いてあった。泣きそうだった。このふるえる気持ちをどこにもっていけばいいのかわからない。小さな心臓をもっているかのような小説だった。2024/11/11