出版社内容情報
戦後、突然の凶行に走った男の“心の曠野”
かつて理想に燃え、幻の帝国「満洲国」建設に青春を賭けた主人公の青木隆造――。
敗戦後は福祉事業団兼愛園の園長となり混血児収容、保護教育を自己の責務として全うするのだったが、その内面には果てない曠野が拡がっていた。
その業績が表彰された時、彼は突如崩壊し、凶行に走る。自己の内部にわだかまる「見極めがたい曠野のイメージ」と「喪った時間の痛み」とが「隠微な軋み音」を響かせ解かれてゆく。
全共闘世代に多大な影響を与え早世した作家・高橋和巳が、日本民族の夢想と悲劇をえぐり出した、晩年の問題作が甦る。
高橋 和巳[タカハシ カズミ]
著・文・その他
内容説明
かつて理想に燃え、幻の帝国「満州国」建設に青春を賭けた主人公の青木隆造―。敗戦後は福祉事業団兼愛園の園長となり混血児収容、保護教育を自己の責務として全うするのだったが、その内面には果てしない曠野が拡がっていた。その業績が表彰された時、彼は突如崩壊し、凶行に走る。
著者等紹介
高橋和巳[タカハシカズミ]
1931年(昭和6年)8月31日‐1971年(昭和46年)5月3日、享年39。大阪府出身。1962年『悲の器』で第1回文藝賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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遥かなる想い
82
満洲国帰りで、混血孤児院院長である青木隆造の物語である。この時代の知識人の屈折した心情と 満洲国への想いを 硬質な筆致で描く。 築き上げてきたものへの破壊願望を突き動かしたのは 何だったのか… 理想に破れ、今を認めることができない男が堕ちていく様を 情感豊かに描き切った、この時代の雰囲気満載の高橋和巳の作品だった。2024/06/11
月をみるもの
10
「邪宗門」をかわきりに、自分の中で始まった高橋和巳ブームはますます盛んになっており、本作も満洲好きの心にぐさりとつきささる。次は、解説でとりあげられていた「散華」を読むと決めた。いい年のおっさんになっても中二の時のみずみずしい心を保ちつつ「わたしは国家を、世界を、民族を、聚落を、人類を拒絶する」と言い放ちたい。2020/12/17
みや
3
満州国建設に青春を捧げながら、敗戦により破綻し、戦後は私財を投じて内地に混血孤児院を設立した主人公の男が、権威を得た途端に堰を切ったように堕落の一途を辿る。過去の体験は決して無に帰することはなく、積み重なる不条理な体験は怨嗟を倍加させる。彼の破滅は、心血を注いだ満州国の消滅や敗戦・被占領が生みだした混血児への国家の冷遇など、権力による不条理な扱いへの復讐とも捉えられる。一方、ラストで明かされる満州の橋梁での事件に慄然とする。ともかく、筆者の熱量と筆力に圧倒された。2019/04/19
きのこの日
1
30代でこれを書かれたのか。すごい。凄みのある本だった。文体も凄みがあって、一文一文が重たくて粘りけがある。少々頭でっかちなようにも感じるが、読みづらくもなく、過剰な自意識について共感できるところもある。満州国の歴史についてはあまり詳しくなかったため勉強にもなりました。2025/03/10
クッシー
1
満洲国の崩壊と共に男の夢は潰えた。戦後に行った慈善活動も失った情熱の代わりにはならなかったということだろうか。心の空虚さを曠野と表現していた。最初はよくわからなかったが、心の動きは絶えず流動的で、そう考えると、確かに、となる。今虚しさを感じることは少ないが、やがて年を重ねるとそういった感情に苛まれるのだろうか。そうでないことを願いたい。2023/02/04