出版社内容情報
阿部 昭[アベ アキラ]
著・文・その他
内容説明
母の死や息子の受験など煩雑な現実に振りまわされながらも、“もっと単純に生きられたら”と心ひそかに願う中年の男。心臓を患った彼は、年寄りの医者にもっと海でも眺めていろと通告され、そんな偏屈さに妙なシンパシーを抱く。「単純」とははたして何か―。期間にして二年半の日々を、静かに、淡々と綴った阿部昭の自伝的作品であり、妻への思い、三人の息子それぞれに対する複雑な感情などがユーモアと深いペーソスで綴られている。
著者等紹介
阿部昭[アベアキラ]
1934年(昭和9年)9月22日‐1989年(平成元年)5月19日、享年54。広島県出身。1973年『千年』で第27回毎日出版文化賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ワッピー
36
沢木耕太郎「作家との遭遇」から遷移。「書かないことが妙味」という紹介だった気がしますが、湘南に居を構え、日がな家にいて原稿を書き、自転車でぶらつき、たまの遠出や旅行にも愉悦と同時にホームシックを覚える作家の生活は、見事に平坦で触幅の少ない世界でした。むしろ激しい波風も所定の範囲内に捉える強固な主観というものを感じた気がします。昭和のオッサンというものを等身大に描いた作品ですが、読むのにえらく時間がかかりました。ワッピーは【単純】とは他の視点や価値観の介入を一切許さない個人主義的描写ではないかと感じた次第。2022/10/15
踊る猫
30
「凡事徹底」という言葉を知った。ならば阿部昭のこの作品はそれこそ「凡事」、つまり何の変哲もない事柄を「徹底」して平たく描いた作品ということになる。だからこそこの作品は読みやすく、そして確実に何かを残す。今回の読書で私は自分の身の上を振り返った。自分の身に起きていることも「凡事」に他ならない。仕事も私生活も、何もかも。だが、それを「徹底」して見つめていると言えるのでは。そう思うと著者がリラックスした筆致で書いているこの作品がそれゆえに持ち得た深みについて考えさせられる。とはいえ高尚な文学ではない。だからいい2022/11/25
風に吹かれて
21
朝、起きたところから話は始まる。103話。息子や妻とのこと、友人とのこと、親とのこと、日々の移ろい、思い出、好きな絵画のこと、などなど。つくりごとも含んでいると著者は作中で書いているので、小説なのだろう。読んでいて、日々の小事を綴った長いエッセイのように感じた。 →2022/09/30
踊る猫
19
書いていることを楽しんでいる。それが筆致から伝わってきて、こちらまで心地よくさせる。保坂和志の出現を予告していたかのような内容であり、あるいは一編の長編小説の中に日記やショートショートを盛り込むことで五目寿司のような構成として美味しく仕上げた、そんな作品であるとも感じられる。一種のメタ小説としても読めるし、そんな難しいことを考えなくともエッセイの延長上にある気楽な小説として読むこともできる。この懐の深さよ。実験的なことをやろうという力みもなく、心地よい。ほぼ作中の著者と同い年に読んだのはなにかの偶然なのか2021/09/02
ソーダポップ
9
単純な日常生活の中に物語がある。ごく普通の日常生活をみずみずしく描ていて「ありのままで良いんだ」と思いました。シンプルに物事を捉えて自分をそして、周りを正しく見つめ直すと言うのが大事な事だと感じました。 2020/08/12