出版社内容情報
純なナポレオンの末裔が珍事を巻き起こす
春のある日、銀行員隆盛の妹、巴絵に一通の手紙がシンガポールから届く。姿を現したのは、フランス人、ガストン・ボナパルト。ナポレオンの末裔と称する見事に馬面の青年は、臆病で無類のお人好し。一見ただのうすら“おバカ”だが、犬と子どもに寄せる関心は只事ではない。
変質者か? だが、すれっからしの売春婦をたちまち懐柔したり、ピストルの弾丸を相手の知らぬ間に抜き取るなど、はかりしれない能力も垣間見える。
そして行く先々でその生真面目さから珍事を巻き起こしていく。日本に来た目的は?その正体は?そんな“おバカ”な一方で、彼は出会った人々の心を不思議な温かさで満たしていく。
遠藤周作、得意の明朗軽快なタッチながら、内に「キリスト受難」の現代的再現を意図した心優しき野心作。
遠藤 周作[エンドウ シュウサク]
著・文・その他
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
GAKU
63
先日読んだ「悲しみの歌」に登場している謎の外国人ガストンが主人公の作品。こちらの方がずっと以前に書かれています。「深い河」にも少しだけ登場しています。全体的に軽妙なタッチで書かれていて、とても読みやすい作品です。大柄で馬面、臆病で無類のお人好し。一見ただのおバカなフランス人ガストン。しかし彼は何故だか出会った人たちの心に残り、彼らの心を不思議な温かさで満たしていきます。彼は間違いなく遠藤周作氏の考えるキリスト像ではないでしょうか。私の心の中にもガストンは温かい何かを残してくれました。⇒2016/08/28
Ryuko
26
何年ぶりの再読だろう。時代がかわっても愚鈍なガストンのどんな人間も信じようという気持ちに心を打たれる。人を信じることができない殺し屋に自分と同じ遠藤という名前を与えたのは著者の遊び心かそれとも何か自分への戒めだったのか。巴絵にごちそうしたい、巴絵がすきでしたと言うシーンにきゅんとした。神の愛を持つガストンがみせた人間らしい感情に胸を揺さぶられる。2016/10/01
ひなきち
20
読友さんからお勧めいただいた小説。思ったよりコメディ色が強かったが、人間愛にじっくり向き合い、考えることができた。ガストンの、不器用でお人好しなところがたまらない。本当に…愛おしい「おバカさん」。人生における勝者は、こういう人であるべきだけど、報われないことの方が多いから、とても胸に迫ってくるのだなぁ。フェリーニ「道」にも言及されていて、ああ…やはり遠藤周作好きだ!と再認識した。良い読書ができました(^^)2017/03/26
michel
17
★3.9。タイトルからの想像を、大いに裏切ってくれました。遠藤周作、初の新聞小説。納得。これは作者代表作である『沈黙』『深い河』を新聞小説にしたらこんな感じー、とおもわされました。ほんまの”おバカさん”は私たち。外聞に、先入観に、本質を見ることすら出来ない私たち。ガストンさん、あなたは一体何をしに日本に来たの?今の日本を見て、どう思っていますか?2018/09/02
4fdo4
14
さらさらと、行間を飛ばして読んだら何の話かさっぱり分からないで終わるだろう。 この軽い感じのする題名の裏にある、遠藤周作の思いは他の作品にも多く見られる彼のキリスト教への思いは強い。いや、優しいのか。他作品にもガストンは出てくるが、みんな優しい。優しすぎる。馬鹿正直。。優しすぎる。 2019/10/06