内容説明
大正から昭和にかけ、女流俳句の先駆者として俳誌「ホトトギス」で活躍した天才的俳人・杉田久女は、昭和11年、敬慕する師・高浜虚子から突然、同人を除名された。俳句を芸術として取り組み、17文字に生命を賭けていた久女は以来、不幸な運命を辿る…。かずかずの艶麗な句を遺しながらダークな伝説にまみれた悲劇な人・久女。芸術と家庭のはざまで、懸命に生きた“早すぎたノラ”の真実に迫り、新しい久女像を創造する。悲劇の女流俳人を描く書き下し長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
紅はこべ
86
田辺聖子さんの訃報を聞いて、ちゃんと読んだ数少ない一冊。高浜虚子が怖いと思った。2019/06/11
佐島楓
58
小説とあるが、想像の介在はあるにせよ、立派な研究書である。高浜虚子の心理状態に興味がわく。一方的に久女を「ホトトギス」から破門した虚子。そこに何があったのか。立派なミステリである。2016/10/13
ラスカル
17
虚子にうとまれ除名になり、精神を病んで失意のうちになくなったという「ホトトギス」派の俳人杉田久女。なぜか周囲の評判が悪かった久女を丁寧に掘り起こしてゆく田辺氏。彼女のまっすぐで融通がきかない性格にもよるのかも知れないが、虚子の保身からくる演出、デッチ上げによるところが大きそうだ。虚子という人には失望しました。どの世界も権力者に嫌われたら芽がでないんだなぁ。2022/10/02
peace land
7
花衣ほか久女の俳句が好きになって、どんな人かと読み始めた。俳句の世界の恐ろしさを知った思いだ。俳句に限ったことではないのだろが。ひたむきに俳句を作る久女の姿が良かった。虚子から立子、今に続く俳句の道を思い返してみた。田辺聖子の心がこもっている温かく正直な作品だ。2019/11/29
Gen Kato
4
再読。これまで伝えられてきた杉田久女像がいかに当てにならない伝聞と悪意で作られていったのかを、やわらかくやさしい視点でありつつも精密に検証していく。とかく他人とのあいだに齟齬をきたしやすかった才能ある女性が、師である絶対権威者に嫌われたことで、その生前も死後も鞭打たれつづけたさまには慄然とする。要はいじめと同じですね。田辺聖子先生が書かれた評伝の中でも屈指の名作。2013/10/29