内容説明
彼がいなければ世界はないのに、どうして彼のいない現実を生きなければいけないのだろう(『お縫い子テルミー』)。アルバイトをして、ひと夏の経験を買った。ぼくは来週の木曜日、十一歳になる(『ABARE・DAICO』)。誰かに明日を翻弄されても、自分らしく強く生きてゆく。心優しき人々に出逢える、二つの物語。
著者等紹介
栗田有起[クリタユキ]
1972年長崎県生まれ。名古屋外国語大学外国語学部英米語学科卒業。母娘の自立を描いた「ハミザベス」で第26回すばる文学賞を受賞
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感想・レビュー
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hirune
41
「お縫い子テルミー」祖母と母と3人で家を持たず他人の家に居候しながら育ってきた照美。お裁縫の技術以外何も与えられずたった16歳で一人で歌舞伎町で生きていく。物凄く不幸だけど、誰に頼るでもなく生き抜いていきそうな彼女は逞しい。「ABARE・DAICO」子供を育てるのは大変だけど、育てられる子供だって大変なことは色々ある。不仲な父母に、自分たちの問題を子に押し付けるな、甘えるなと言い切れる誠二はかっこいい小学生だ。きっといい男に育つだろう😄2020/10/09
ブルームーン
21
流しのお縫い子「テルミー」が主人公の話。ちょっと現実離れしたファンタジーっぽい話だけど、スラスラと読めた。もう一つの作品「ABARE・DAICO」の方が主人公に共感できてよかった。2014/07/15
ごはん
13
いい意味で緩い雰囲気をもつこの物語の中で強い意志を持って生きていこうとしている登場人物たち。懐かしくてくすぐったい。追体験しているような感覚。大人の厭らしさや狡さに嫌悪を感じつつも早く大人になりたいと願い、誰に頼ることなくひとりで生きる術を手繰り寄せようとしている。好きなひとと抱きあいたけれど気持ちのないひととは抱きあえない。「一針入魂」。流しのお縫い子で生きていこうときめたテルミーの意思の強さはすがすがしい。ぴんと張った布に裁ち鋏を入れる瞬間、のるかそるかの分かれ道でテルミーはきっと迷わない。2010/03/22
ちゃこてい
12
お縫い子テルミー、すっごく良かった。縫い物に関してはこだわりを持ち、身を起こる事は受け流している様に見えるテルミー。好きな人の事もその恋のいく先も理解していて。とってもドライに感じたけれども、冷めているのとはまた違う。文章の1つ1つがなんだか素敵。この本にすごく惹かれる。2017/11/05
二藍
8
なんとなく呼ばれるように手に取った本。物心つく前から、家族ともども枕を変えつづける居候生活を送ってきたテルミー。長年磨いてきた裁縫の技術を活かし、彼女が流しの仕立て屋として独立するきっかけになったのが、歌舞伎町のシナイちゃん、女装の男。歌に恋するシナイちゃんへの想いは叶わなくとも、テルミーは魂をこめてドレスを縫い上げる。歌うこと、縫うこと、その理由を「運命だから」と言い切るふたりにはもの悲しさを感じたけれど、うらやましいとも思った。自分で決めて生きていいのだという自信はまぶしい。2014/11/24