内容説明
ひびわれた魂が恩寵を予感するとき―。小さきもの、弱きもの、草木などのいのちの営みとの一瞬の共感が生きる力を純化させる短篇小説の極致。
著者等紹介
日野啓三[ヒノケイゾウ]
1929年6月14日東京都に生まれる。幼少期を現韓国で過ごす。52年東京大学文学部社会学科卒業。読売新聞社入社。外報部勤務の傍ら文芸評論を執筆。66年「向う側」で小説デビュー。74年「此岸の家」で平林たい子文学賞、75年「あの夕陽」で芥川賞、82年「抱擁」で泉鏡花文学賞、86年「夢の島」で芸術選奨文部大臣賞、「砂丘が動くように」で谷崎潤一郎賞、92年「断崖の年」で伊藤整文学賞、93年「台風の眼」で野間文芸賞、96年「光」で読売文学賞を、それぞれ受賞
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感想・レビュー
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Bartleby
13
著者の作品はカッチリとした輪郭のある文体で書かれていて、そこに入ったわずかな亀裂から徐々に何かが滲み出してくるというものが多いと思う。それに対し著者最後のこの短編集はなんだか緩くほどけていくような、幻想と現実の境界も取り払われているような印象を受ける。何気ない光景がこの上なく神秘的なものとして描かれる。その光景を突き放して眺めればどこか不気味に感じ、入りこんで眺めれば美しく感じられてくる。その二つの感覚の間で揺られながら読んだ。2015/02/28
tipsy
8
最後の本という事を知らず…。もっと色々読んだ後読みたかったのが正直な所。短篇集だがエッセイのようで日野啓三の気配が濃い。現実と幻想は縺れることなく目の前にあり、小説という形になり生まれる。死を予感しているのではと思わせる気配を持ちながら現実の極限まで離れ、幻想、過去を呼び込み、私の意識の奥の暗がりに入り込む。大病は自分を平和な日常の端まで追いやり、生命の感触を敏感にさせる。そして意識は常に高い所と触れ合っているような異様なリアリティ。この作家は、感覚の方を優位に置くいわばシャーマンのような書き手な気がした2015/04/09
いのふみ
1
これは治療によって現れる妄想だとしても、何かを見て、何かを幻視するということは、現実のこととして確かにある。2024/10/19
くまこ
1
「クモ膜下出血」後の感覚が怖いほどリアルに綴られている。頭の中に落葉が詰まっているという表現に、言葉を失った。生と死の狭間で著者の知覚は、魂の領域に近付いていく。「脳科学」で検索しているうちに偶然本書にヒットした。自分にとっては奇跡ともいえる邂逅だった。 2011/08/08
Blue eclipse
0
「肯定することは美しい」 生きていくということ。2016/12/22