内容説明
北京からパリへと書き継がれ、7年の歳月をかけて完成。癌を宣告された男の放浪と魂の彷徨を描き、ホメロスの叙事詩に擬せられ、「東洋のオデュッセイア」と讚えられる。本書によって、中国人作家初のノーベル賞受賞となった待望の翻訳刊行。
著者等紹介
高行健[ガオシンジエン]
小説家・劇作家・画家。1940年、中国江西省生まれ。62年、北京外国語学院フランス語科卒業。文革中は山村で5年余りを過ごす。70年代末、モダニズム小説の作家として登場。のち演劇の分野に進出、脚光を浴びるが、不条理劇『バス停』(83年)で激しい批判にさらされた。その後、絵画に活路を見いだし、85年からヨーロッパ各地で個展が実現。87年末出国、翌年からパリに逗留。89年、パリで天安門事件を知り、『逃亡』(90年)を執筆、祖国を捨て、政治亡命者となる。以降、中国では全作品が発禁。97年、フランス国籍を取得。『霊山』(90年)、『ある男の聖書』(99年)を中心とした文学活動で2000年度ノーベル文学賞受賞
飯塚容[イイズカユトリ]
1954年生まれ。専門は中国現代文学、演劇。東京都立大学大学院修了。現在、中央大学文学部教授
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感想・レビュー
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燃えつきた棒
34
バッハの『無伴奏チェロ組曲』のように、読む者を深い瞑想へと誘なう小説だ。 先日読んだ鄭義の『神樹』とは対照的に、この物語では事件らしき事件はほとんど起きない。 ただひたすら、主人公である作家の霊山を探しての彷徨と果てしない内省が描かれる。 霊山とはいったい何だろうか? 「人間到る処青山あり」の青山(墓)だろうか?2021/07/03
James Hayashi
27
中国人としては初のノーベル文学賞受賞者であるが、受賞時の国籍は政治亡命のためフランス。固有名詞を持つ登場人物はなく、果たして何人現実に存在するのか、夢の中なのかわかりづらく幻想的な作風であるが、空虚とも感じられる。旅人と女。現代中国文学など初めてであるが、性愛など描いたら出版禁止だろう。色々な要素が注ぎ込まれた作品であり、そういった意味ではユニークで前衛的で、ノーベル賞に値するのかも知れない。2021/04/15
CCC
7
さすが中国果てしないな。2014/12/30
ぶらり
7
憂愁を湛えた八十一の断片から成る書、つぼを突かれた私には文句なしの一冊となった。老人が語る昔話、伝説、説話。一族や自身も経験したそう遠くない過去、内戦、革命。彼女という欲情。漂うような人々の生活。虚脱した気紛れであり物見遊山で、自己探究にして逃避行である。破壊された自然や歴史、文化を悼み、抑圧された多民族国家を惜しむ鎮魂歌である。霊山は忘れ去られ、もはや「私」にも「おまえ」にも「彼女」にも知覚できないことを自得し、高行健は国を捨てパリに去った。遺物のようなこの書には、霊山のごとく計り知れない奥行きがある。2011/05/07
の
7
癌の宣告を受けた男が苦しみを忘れる「霊山」を求めて中国を彷徨い歩く、華人初のノーベル賞受賞作家、高行健の代表作。小説というものが「物語」と「著者の意見」で成り立つのであればプリミティヴにその定義に従った作品だがその実像は近現代の小説像とは似ても似つかない。中国の風景を言葉でもって切り抜き、民話と文化を挟みつつ、しかし語り手の意見はそれらとは全く違うところで展開される。この一見アンバランスに聞こえる起承転結が生気を失う自分と生き生きとした故郷とを乖離させる手段となる。現代版『ユリシーズ』と呼んでもいい名作。2011/04/06