内容説明
衰運にむかいつつある映画監督モゲルと青春の盛りに近づきつつある少女ナシマ。“帆船アザール=危険な夢”に我が身を賭けた男と少女を描いて、現代フランス最大の作家が、壮麗なる冒険の世界へ読者を誘う。洞窟で伝説となった男を描く予言的な中篇「アンゴリ・マーラ」所収。
著者等紹介
ル・クレジオ,J.M.G.[ルクレジオ,J.M.G.][Le Cl´ezio,J.M.G.]
1940年4月13日、英国人を父、フランス人を母に、南仏のニースに生まれる。英国のブリストル大学、ロンドン大学、ニース大学に学ぶ。23歳で、処女長篇小説『調書』刊行によりルノドー賞獲得、華々しくデビューする。次作短篇集『発熱』(65)、第3作の長篇『大洪水』(66)などによって、自己の世界を確立。以後も、長篇エッセイ『物質的恍惚』(67)、短篇集『海を見たことがなかった少年』(78)、長篇『砂漠』(80)、『黄金の探索者』(85)、『パワナ』(92)等、数々の作品を発表。60年代以後のフランス文学を代表する作家
菅野昭正[カンノアキマサ]
文芸評論家、フランス文学者。東京大学名誉教授。1930年生れ。東大仏文科卒
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松風
19
ル・クレジオの小説のことばは、作中にでてくる「森や谷川で生まれて人の元にやってきた」ことばなのかもしれない。2016/04/04
Mark.jr
2
ある時期から、ル・クレジオは非西欧的文化や、ロビンソン・クルーソーのような航海を、積極的に題材にし始めました。この本もそういった海洋小説の系譜にありますが、同時に老いた男と青春真っ只中の少女の一期一会の物語でもあります。ル・クレジオの透明な文章が、この小説をロマンの薫り高い物語へと昇華しています。同梱してある中編「アンゴリ・マーラ」は、神話的ではありますが、もっと率直なボーイ・ミーツ・ガールの物語になっています。男にとって、女性とは海と同じくらい神秘的な存在だということですね。2018/11/16
So Yamada
2
ル・クレジオ初読。『偶然』はあまりに乱暴で、それゆえに美しい。少女の不安と初老の男の不安と、きっとその二つの不安は性質的に違っても、いずれも無垢であり、自分対世界の構造のなかで、二人の関係は壊れる船とともに崩れ去る。二人の人生に「しこり」だけが残り、それもアザールの残骸のように永遠に海の底に沈んだ。人間として成長するということはあらゆる抑圧のなかに身をおくことかもしれないが、そういうものをごまかさずに生きようと思えば、愛憎は病魔のように体に染み着く。でも自分の眼で向き合うことが強く生きることかと思った。2013/02/10
更新停止中
1
再読。表題作はとても好きで自分にとって大切な物語。誤読を覚悟で私見(妄想)を垂れ流すと、子供であり、オンナコドモという徹底的な被支配者である少女の追い求める「去って行った父」と、オトコオトナという権力に自ら縛られ、かつ老いという権力の斜陽の気配の前に立つ男の追い求める「奪われた少女」は、かれらの立場で夢見る事が許されたもの(=異性)に全く別の物を仮託したにすぎなくて、それをさらに仮託しあったお互いの眼差しが交わる場所に一艘の舟がある。一瞬生まれて壊れた永遠の三角形。2011/10/15
サトリミギト
0
「偶然」のみ読了。アンゴリ・マーラも面白そうだが、読むかどうか。軽い気持ちでは読めない。2017/12/20