内容説明
ある山のホテルで知り合った中年男女。その直後女は離婚を決意し、その男と暮らすようになる。平穏な同棲生活を送っていたが、ある日女のもとに一通の匿名の手紙が届いた。「私はスパイのようにあなたの後をつけています、あなたは美しい、とっても美しい」とだけあった。最初は不愉快さをつのらせていたが、女の心は好奇心に変わり微妙に揺れ動いていく…。男と女の愛のかたちを描き、生の可能性を追いもとめるクンデラの最新作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
118
原題直訳だと「アイデンティティ」。アイデンティティとはまず何か?自分のアイデンティティとは?それはいつも変わらずにあるか?相手によって変わるか?パートナーが変われば自分そのものも変わるか? そう問うのに、クンデラはエロ的要素を持ち込む。彼女がパリからロンドンに向かう列車の窓から見える景色の変化が、ゾッとするほどイヤらしい予感を誘う。「列車は数秒後に海底に下降すると告げた。実際、彼女には円く黒い穴が見え、列車は蛇のようにその中に忍び込もうとしていた」わぉ。しかし、その後がキテレツすぎちゃって(^^;2020/04/07
nranjen
5
どこから夢がはじまったかもわからない、しかもこの設定自体や物語全体をも飲み込んでしまう大混乱にもつれ込ませる壮大なフィナーレを作り上げるクンデラの筆力はやはりすごいなと思う。ほんとうの私、そもそものアイデンティティーなんて何?という、途方にくれた裸になったシャンタルの叫びが聞こえてきそうだ。でも問いの立て方といい、描き方といい、やっぱりクンデラだなあと思う。2019/04/12
akubi
4
夢をみるのは、好き。? ー 好きじゃない。だって無意識の中で、今の自分を否定しているような自分に気がついてしまうから。 貴方を想うときの私。 貴女を想うときの僕。 二人の心が噛み合わない。 少しづつすれ違がってゆく。軋んだ音をたてながら、哀しく。 なんとなく気づいているのに止められない。後戻りもできない。 また、ひとつになれる。?? ー わからない。男と女は違ういきものだから。解りあうことはきっとずっと、ないから。 愛。なんて儚い概念なのだろう。わたしは少しの哀しみの中で嘲笑する。 2019/08/01
にゃら
4
いくつだか知らないけど四十過ぎて誰も私に振り向かないことを思い悩むようにはなりたくないものだ。恋をしているならいいけど、コレットの「シェリ」のような。2017/12/20
きうりっち
2
幼い息子を亡くしたあと離婚し、その後四歳年下の男性と再婚した女性にある日差出人の分からないラブレターが届くという出だしに期待させられたが、その後の展開は理解しにくい。シャンタルが更年期にかかっているから、というだけのことで済ませていいわけではないが、どう解釈していいか途方に暮れる。どこかからが妄想の段階に入ってしまったのか?あとがきの解説を読んでも良く分かりません。短いので読みやすいのだけれど。2018/01/16