内容説明
18世紀末大革命前夜、フランスからヴェトナムに派遣された宣教師たち。遙か故国からも神からも遠く、修道士(ドミニク)と修道女(カトリーヌ)は熱帯雨林の中に忘れ去られて行った…。94年度、史上最年少ドゥ・マゴ文学賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
206
1993年9月に刊行された『安南』は初版4万部を1日で売り尽くしたという。時に、この新人作家クリストフ・バタイユ(ちなみにジョルジュ・バタイユとは無関係)は弱冠20歳だった。わずか1日にしてベストセラー作家となったのだが、本書は娯楽小説ではなく、日本風に言うなら純文学。翌年には、史上最年少でドゥマゴ文学賞まで受賞している。この小説の第一の魅力はやはりエキゾティシズムにあるだろう。フランス革命を間近にした18世紀末のヴェトナムが舞台だ。デュラスを想起する人も多いだろう。また宗教との関係では遠藤の『沈黙』を。2013/09/12
ケロリーヌ@ベルばら同盟
41
幼き皇帝により晩秋のヴェルサイユに齎された求援の親書に応え、遥かなるヴェトナムへと出航した宣教師たちは、艱難辛苦の末彼の地に到達するが、布教の道は険しく、故郷は地理的政治的に、あまりにも遠い。革命により、カトリック教会の威信は地に堕ち、フランス人修道士の活動は、忘却の彼方へと追いやられる。忘れ去られし者達は、自然の営みの中に宿る神を見いだす。過ぎ行く時の密林に言葉の滴りが洞窟を穿ち、愛という名の王国が出現する。竹の十字架、滅びつつあるヴェルサイユに響く小さな裸足が駆け回る音。今は無き冬枯れと熱帯の墓碑銘。2019/04/27
YO)))
34
幽けき佳品。異国フランスを彷徨うアジアの幼帝。神父との邂逅、約束、そして死。センチメントとエキゾチズムの通奏音が鳴り始める。ーーそしてヴェトナム。田園と青空の永遠。宣教師たちの旅路の果ては、忘却か棄却か。あるいは回帰か?ただ温もりを感じることをこそ、愛と呼べる国。2017/04/19
おかじ
28
簡素な文体の中に確かな喚呼の力。ヴェトナムの地へのエキゾチックな船旅、そしてフランスの宣教師たちがいかにして剥き出しの人間へと回帰するか。様々な二項対立を融和させ、脱構築しながら、愛という軸へと収斂してゆく。書かないことは書くことと同じように価値のある営みだということを再認識することができる。2020/10/22
紫羊
27
少し前に見た映画「沈黙」の、「日本の信徒が手を合わせている神は、あなたたちが信仰している神とは違う」という科白が、繰り返し頭に浮かびました。ヴェトナムの息苦しいほどの湿った空気と土壌が、宣教師たちの信じる神を、絡めとり侵食していく様に、過去から今に至るまで、物理的な支配だけでは何ともならなかった、西と東の間に横たわる深い淵の存在を思いました。2017/03/19